『八月の光』と『アブサロム,アブサロム!』におけるアイデンティティの追求の問題
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概要
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『八月の光』のジョー・クリスマスは私生児として生まれ,物心ついた時には両親はなく,自己の正体が全くわからない.さらに,狂信的なカルヴィニズムの信者である祖父が,彼の中には黒人の血が混じっていると思いこませたがために,自分が黒人か白人なもわからないという状況になる.自己の正体がわからないが故に彼は孤独であり,孤独からのがれるために自己の正体を見いだそうとする.しかし,カルヴィニズムや人種差別によってゆがめられた人格のために,黒人とうまくやってゆくことはできず,白人は彼をただ黒人と見るのみで彼の人格を認めないが故に,彼は白人ともうまくやってゆけない.そのために彼は最後まで自己の正体を見いだせず,環境によって孤独な生活をしいられるのである.『アブサロム,アブサロム!』のチャールズ・ボン,チャールズ・エティエンヌ・サン=ヴァレリー・ボンの状況はクリスマスのそれとはやや異なるものの,彼らもまた,黒人の血のために,自己の正体を見いだせない人々である.以上のことを考えると,フォークナーはこれら二つの作品において,南部の厳しいカルヴィニズムや激しい人種差別を批判していると恐れずにはいられない.
- 1986-03-01
著者
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