歌舞伎のイコノロジー : 『寿曽我対面』
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概要
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今日のシェイクスピア批評は、新しい批評方法の実験場の様相を呈し,観客論,ディコンストラクション,フェミニズム,新歴史主義等,さまざまな角度からシェイクスピア(William Shakespeare)を批評し,分析する試みが活発になされている。これは正に,シェイクスピアの戯曲が豊饒であることの証明であろう。しかし,多様な批評を行う際に,シェイクスピアの戯曲が上演台本であったという基本的な認識に立ち返り,戯曲の言語,ロゴスの検討とともに,舞台面での動きや視覚的な意味,ミメーシスの面から戯曲を読み解く視点を忘れてはならない。上演台本として視覚的な面からシェイクスピアの戯曲を読み取ろうとする際,パノフスキー(Erwin Panofsky)の『イコノロジー研究』(Studies in Iconology, 1939)を嚆矢としたイコノロジーの研究は,刺激に富んだ示唆を与えてくれる。イコノロジーは図像学と翻訳されているが,劇を単にプロットや構造から検討するのではなく,場面が生み出す視覚イメージ,舞台のタブローから劇の象徴的意味を読み取り,テキストに書き込まれた図像的な意味を解明する研究方法で,戯曲研究の新しい可能性を示している。パノフスキーが,ルネッサンス絵画を読み解いた手法をシェイクスピア研究に応用し,舞台に展開する「場面」の視覚的造形と劇の中心主題とを,同時代の精神史と重ね合わせて読み解くイコノロジーを,歌舞伎に応用すると何が見えてくるのか,その結果が,シェイクスピアの研究にどのように関わるかを考察したい。
- 清泉女子大学の論文
- 1997-12-25
著者
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