<原著>人の肺癌細胞の電子顕微鏡的研究
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概要
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外科的に切除された57例の人の肺癌組織を材料として電子顕微鏡的観察を行ない, 肺癌細胞の微細構造について検討するとともに, その結果にもとづいて肺胞領域からする発癌の可能性について考察した。第1篇では, 肺癌細胞に共通した一般的な微細構造を明らかにした。癌細胞相互間の接着が疎になるとともに, 細胞自体の配列も不規則になり, 細胞の極性が失なわれ, 個々の細胞の大きさや形のバラツキが大きくなる。そして, 核・細胞質比は, 健常なものよりも遙かに大きくなる。核小体は大型で, 数も増すさらに, ribosomeは細胞質内に遊離の状態で分布しているものの方が多く, 小器官では, とくにmitochondriaのつよい変形が目立っている。このような特徴の大部分は, 癌細胞の異型性として, すでに光学顕微鏡のレベルで指摘されていることであるが, 本篇では, 電子顕微鏡的観察によりこの種の異型性が微細構造にも及んでいることが明らかにされている。第2篇では, 組織型別にみた癌細胞の特徴を述べた。すなわち, 腺癌では, 扁平上皮癌や未分化癌にくらべて, 細胞質内の小器官の発達がよい。そして, 分泌能を有すると考えられる腺癌細胞では, とくに粗面小胞体とGolgi複合体の発達が良好である。扁平上皮癌では, 細胞質内にtonofilamentが豊富にみられる。一方, 未分化癌では, dark cellの混在率が高い。また, 小細胞型未分化癌では, 核小体の分散が特徴的である。第3篇では, 肺癌の発生母地として, とくに肺胞壁細胞に注目し, 各種の刺激に対する同細胞の反応態度を電子顕微鏡的に検討することにより, 肺胞領域からする発癌の可能性を論じた。第1に, 瘢痕癌は, 肺胞領域に招来される腺様化生を母地として発生することが知られているが, 電子顕微鏡的観察の結果, このような腺様化生を呈する上皮細胞は, 肺胞壁細胞であることが明らかにされた。第2に, イヌの実験的無気肺症では, 無気肺化に伴なって変性脱落する肺胞上皮細胞に代って, 肺胞壁細胞が増殖することが知られている。第3に, マウスのウレタン肺腺腫は肺胞壁細胞に由来している。以上の一連の電子顕微鏡的観察の結果から, 肺胞壁細胞が非常に活性の強い細胞であり, 肺胞領域における補充細胞として, 何らかの機転により癌細胞に転化する潜在能を有することが推定される。以上要するに, 本研究は, 1965年長石, 岡田等によりExperimental Medicine and Surgery 23 : 177に発表された"Electron Microscopic Observations of the Human Lung Cancer"なる研究を, さらに深く堀り下げたものである。
- 京都大学の論文
- 1968-03-30