ヒ***ニムス・デ・モラヴィアの聖歌唱法論
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概要
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ヒ***ニムス・デ・モラヴィア(Hieronymus de Moravia[羅], Jerome of Moravia[英])は,13世紀の末にパリで活躍した音楽理論家である。モラヴァ(チェコ)出身のドメニコ会修道士だった彼は,当時の文化の中心地のひとつであるパリに出て,ここで『音楽論Tractatus de musica』を著した。同僚の修道士のために書かれたと思われるこの理論書は,この時代にあって,実践的アプローチを採っている点で注目される。彼の『音楽論』は,全体としては,既成のさまざまな音楽理論書の集大成のような形をとっている。しかし,随所に,彼独自のユニークな音楽論も組み込まれている。とくにユニークな論述としては,キリスト教典礼聖歌の作曲法を論じた一節(第24章),典礼聖歌の歌唱法を論じた一節(第25章),中世の楽器の調律方法を論じた箇所などがあげられよう。今回の論文では,このうち,第25章の<聖歌唱法論>に焦点をあてた。中世キリスト教会の単旋律聖歌の演奏に関しては<リズム解釈>の問題が,従来から論争の的となってきた。この問題に関しては,現在もなお対立する,2つの立場がある。ひとつは<等価リズム>を主張する立場。もうひとは<計量リズム>を主張する立場である。このうち,<計量リズム>の立場を支持する証拠として,かつてヒ***ニムス・デ・モラヴィアの『音楽論』がとりあげられたことがあった(MacClintock, 1979)。しかし,はたして,それは正しいだろうか? ヒ***ニムス・デ・モラヴィアの『音楽論』は,本当に<計量リズム>の立場を支持する証拠となりうるだろうか? そうした観点から,今回,この音楽理論書を再読。さらに,その唱法論を実際の聖歌にあてはめて検討した。その結果,ヒ***ニムスはたしかに計量音楽の理論用語を用いているが,単旋律聖歌を計量音楽と考えていたわけではなかったことが確認された。彼は,単旋律聖歌を,あくまでも等価リズムのものとして考えている。しかし,それを歌うさいの微妙に装飾的なニュアンス付けについて,彼は論じたかった。そしてその目的のために,当時最新流行の,計量音楽の理論用語を<借用>したのである。