時間および空間感覚研究序論(3)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本稿では,時間に関してこれまでに提示した仮説にもとづいて,時間感覚を具体的に取り出す視点と方法の考察を行うとともに,時間感覚抽出の一具体的方法を示した。木村敏の,ante festum(前夜祭的)意識,intra festum(祝祭の最中)意識,post festum(後の祭り的)意識というモデルは,時間感覚の分析という視点からも,重要な仮説的見解である。それぞれの時間意識は,木村によって,「未来先取的」,「瞬間的現在性」,「現在完了的」と表される存在構造のように分析的モデル化される。この分析的時間意識モデルとの関連で重要なことは,これらの三つの時間感覚はどのような言語表現として外化されてくるのか,という問題である。ここに,表現(Ausdruk)とその了解(Verstehen)という視点が意義をもってくる。宗教現象の解明との関連において,時間感覚を具体的に取り出す場面に,表現と了解という視点を導入するとき,神話(Mythe)と終末的思考(Eschatologie)が重要な分析の対象であると考えられる。この見解を,レヴィ=ストロースによる神話の分析ならびにマックス・ウェーバーの預言者と終末論の分析を中心に吟味した。前者については,語られることによって生きつづけている神話が,難産の女性が言い表すことができない状態を,あるいは他に言い表すことができない状態を,直接直ちに自身で言い表す(s'exprimer immediatement;pensable;acceptable)ことができる状態に変容させる局面,つまり,現実的経験の再構成(restituer une experience reelle)によって神話が再び生きられる(vivre, ou revivre)局面を問題とした。神話という言語表現への移行によって,難産の女性は激痛を受け入れ,またそれを変形し乗り越える。この事例は,語られることによって生きつづけている過去が現在化されて生きられている,または再び生きられていることを示している。後者については,イスラエルの予言が,驚くべき激情のなかで行われたのは,預言者が将来に待望していることが迫真性をもっている(Aktualitat der Zukunftserwartungen)からであったこと,また,この思考が現世への無関心(Weltindifferenz)を引き起こし,そうした非現実的な側面(Unwirklichkeiten)が,生存していた人々に現実の生活に堪えることを可能にするもの,つまり希望を与えたことを問題とした。この事例は,未来に待望されている終末的意識の高揚と緊張が現在化されて生きられていることを示している。
- 2002-03-20
著者
関連論文
- Some Aspects of Social Structure of a Mayayucatecan Catholic Community, Mani
- メキシコ低地マヤ地域におけるカトリック的宗教文化統合の実証的研究 -マヤ・ユカテカの一カトリック村落マニにおける奇跡を材料として(2)-
- 宗教の太古性と残存性に関する一考察 -マヤ・カトリック村落マニにおける口頭伝承を材料として-
- メキシコ低地マヤ地域におけるカトリック的宗教文化統合の実証的研究 -マヤ・ユカテカの一カトリック村落マニにおける奇跡を材料として(1)-
- メキシコ低地マヤ地域におけるカトリック的宗教文化統合の実証的研究--マヤ・ユカテカの一カトリック村落マニにおける奇跡を材料として(2)
- Some Aspects of Family Structure of a Mayayucatecan Catholic Community, Mani.
- 九州地方における「かくれ念仏」の実証的事例研究(共同研究)
- メキシコ低地マヤ地域におけるカトリック的宗教文化統合の実証的研究 -マヤ・ユカテカの一カトリック村落マニにおける駆け落ち婚(pudz)を材料として-
- Religious Attitudes Towards Altars and Images in a Maya -yucatecan Catholic Community, Mani-
- 宗教的意味の伝達と変容 : ゾロアスター教徒パーシーの祈りを材料として
- 宗教集団の移動と定着の過程の一側面 : ゾロアスター教徒パーシーによるナウサリ定着過程を事例として
- 宗教的象徴と宗教的意味の分有の一側面 : ゾロアスター教徒パーシーの聖なる火を材料として
- 時間および空間感覚研究序論(3)
- Some aspects of social structure of a Mayayucatecan Catholic community, Mani
- An Introductory Study of Personality Structure of Religious Person (2)-with reference to Zoroastrian Parsis inNavsari,Gujarat,India-
- An Introductory Analysis of Prayers : Zoroastrian Parsis Prayers in Navsari, Gujarat, India(1)
- An Introductory Study of Personality Structure of Religious Persons : with reference to Zoroastrian Parsis in Navsari, Gujarat, India
- Establishment and Development of Religious Symbols (2) : Navsari Atash Beheram
- マヤユカテカの一カトリック村落マニの擬制的親子関係とエヒード
- 宗教的象徴の形成と伝達--ナウサリ・パーク・アータシュベーラーム・サエブの抄訳
- マヤユカテカの一カトリック村落マニにおける社会構造の二三の側面
- 書評と紹介 木村武史著『北米先住民ホティノンションーニ(イロクォイ)神話の研究』
- ゾロアスター教徒パーシーの聖火殿建設をめぐる二、三の問題 (第六十回〔日本宗教学会〕学術大会紀要特集) -- (第七部会)
- マヤユカテカの一カトリック村落マニにおける家族に関する一側面
- 時間および空間感覚研究序論(2)
- マヤユカテカの一カトリック村落マニにおける婚姻形態について
- マヤユカテカの一カトリック村落マニにおける祭壇と聖像について
- 時間および空間感覚研究序論(1)
- ナウサリのバガサ祭司パンタークの歴史的展開の一側面
- ゾロアスター教徒パーシーのガーハンバール(gahambar)と新年(No Roz)について
- ゾロアスター教徒パーシーの聖なる火と集団構造
- ゾロアスタ-教徒パ-シ-の聖なる火と名前の記憶について
- ゾロアスタ-教徒パ-シ-における聖なる火と家族
- 聖なる火をめぐるゾロアスタ-教の宗教儀礼--マ-チ(maci)とジャシャン(Jasan)を中心として
- ゾロアスタ-教における鳥葬の塔(Dakhma)(公開講演) (第41回〔日本宗教学会〕学術大会紀要特集)
- An Experimental Method for the Study of Time Perception at the Individual Level -with Reference to a Case Study in a Catholic Community Mani, Yucatan, Mexico-
- メキシコ低地マヤ地域におけるカトリック的宗教文化統合の実証的研究-マヤ・ユカテカのカトリック村落マニの空間感覚分析のための序論的考察-
- Religious attitudes towards altars and images in a Maya-yucatecan Catholic community, Mani