<学位論文要旨>線虫 II 型チオラーゼの構造と機能
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概要
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第1章序論 漿中のリポタンパク質群とは異なり,細胞質内にあって脂質と結合し,これらを移送または運搬する低分子量のタンパク質群が存在する。ステロール運搬タンパク質-2(SCP2)はその一つであり,試験管内でリン脂質やステロール類の移送を促進する可溶性因子として見出された。当初は細胞質のタンパク質と信じられていたが,後にその大部分はペルオキシソームのマトリクスに局在することが判明した。哺乳類のペルオキシソームには,SCP2とは別に,完全なSCP2配列をC-末端にもつタンパク質(SCPx)も存在する。SCPxのN-末側約400残基は3-オキソアシル-CoAチオラーゼの活性をもつ。一方,最近までSCP2は哺乳類,鳥類およびCandida属酵母にしか知られていなかったので,ペルオキシソームに局在するSCP2の普遍的な役割を理解するために,他種生物のSCP2が探索された。その過程で,線虫(Caenorhabditis elegans)の部分的cDNAの中にSCPxに類似の配列をコードするものが見出された。しかし,この配列から推定されるタンパク質のC-末端には,SCP2様の配列が認められなかった。本研究の目的は,このタンパク質をコードする完全なcDNAを単離し,この線虫タンパク質の構造と機能を明らかにすることである。 第2章線虫SCPx類似タンパク質の特徴 線虫のSCPx類似タンパク質をコードする完全長cDNAを単離した結果,このタンパク質の分子量が44kDaと計算されたので,これをP-44と名付けた。P-44のC-末端には確かにSCP2相当配列が存在しない。P-44の遺伝子がSCP2配列をコードするエクソンを含み,別途のスプライシングによって,SCP2配列を含むタンパク質が発現される可能性は,mRNAのノザン法による解析とゲノムDNAの解析とによって排除された。P-44のアミノ酸配列は,SCP2部分をもたない従来型のチオラーゼよりも,SCPxのチオラーゼ部分に対してはるかに高い類似性(57%)を示した。配列の点では,SCPxとP-44は第2のチオラーゼ群を形成する。P-44のN-末端に6残基のヒスチジンを付加した組換え型P-44の遺伝子を作製し,これを大腸菌内で発現させ,精製した。組換え型P-44は,炭素数8から16の間の3-オキソアシル-CoAに対して明瞭なチオラーゼ活性を示した。その反応様式は既知の全てのチオラーゼと同様に,ピンポン・バイバイ機構であった。P-44のアセチルーCoAによる阻害様式は,SCPxの場合と同じく,CoAに関しては拮抗的,3-オキソアシル-CoAに関しては非拮抗的であった。従来型の酵素は3-オキソアシル-CoAに関して不拮抗的に阻害されるので,SCPxとP-44は反応様式の点でも,従来型チオラーゼとは異なる第2の群を形成していることになる。そこでSCPxとP-44とを,II型チオラーゼとしてまとめることを提案した。 第3章II型チオラーゼの作用 ペルオキシソームにはミトコンドリアのものとは異なるβ-酸化系が存在する。しかしそこで働くチオラーゼは別に知られているので,II型チオラーゼの役割は他にあるはずである。ところで,胆汁酸生合成におけるステロール側鎖酸化的切断は肝臓ペルオキシソームで行われる。この反応はβ-酸化に似ているが,ステロール側鎖のα-位の炭素にメチル基があるため,いかなる従来型(I型)チオラーゼを用いても,その最終段階を試験管内で再現することはできなかった。ところが,チオラーゼ反応に先立つ2段階の反応を触媒するD-3-ヒドロキシアシル-CoA脱水/脱水素2機能酵素とその本来の基質であるエノイル型中間体のCoA誘導体の存在下に,P-44を働かせると,胆汁酸の主要な2成分であるコール酸とケノデオキシコール酸がそれぞれの前駆体から生成した。SCPxも類似の系でこれらの胆汁酸の生成を触媒した。また両酵素は,2-メチル-3-オキソ-ヘキサデカノイル-CoAにも作用した。本研究に前後する他グループの研究によって,SCPxがα-位にメチル基をもつプリスタン酸の分解に必要であることが示された。以上のことより,I型チオラーゼは直鎖脂肪酸の分解に関与し,II型チオラーゼはα-位にメチル側鎖をもつさまざまな基質の切断に関与する,と結論した。 第4章線虫II型チオラーゼの発現様式 肝細胞ペルオキシソームでは胆汁酸の合成やプリスタン酸の分解が行われている。しかし,線虫がこれらの代謝経路をもつかどうかは,まだ明らかにされていない。また,P-44の局在部位も不明である。そこで,P-44の生理的役割を推測する手がかりを得るために,P-44の時間的・空間的発現様式の解明を試みた。先ず,線虫の各発生段階を胚,幼生の段階L1からL4まで,幼若成虫,および抱卵成虫に分け,P-44をウエスタン法で,そのmRNAをノザン法で解析した。その結果,P-44は幼生の段階で強く発現していることが明らかになった。次に,線虫個体内でのP-44とそのmRNAの分布を免疫染色とin situハイブリダイゼーションで調べた結果,主な発現部位は腸細胞であることが判明した。
- 2000-12-28