<学位論文要旨>海水ウナギの腸におけるイミダゾリン受容体とその役割
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
序論 ウナギが淡水から海水に移行した場合,環境水の浸透圧が体液よりも高いため,絶えず脱水され,血液量減少の危機にさらされる。そのため,ウナギは海水を飲み,食道において脱塩し (Hirano & Mayer-Gostein 1976; Nagashima & Ando 1994),希釈された海水から腸においてNaClとともに水を吸収している (Ando 1975)。腸におけるNaClと水の吸収は海水に適応したウナギの方が淡水ウナギの2倍以上高い (Ando 1975)。また,ウナギの腸のNaClと水の吸収はアドレナリンによって高められ (Ando & Kondo 1993; Ando & Omura 1993),アドレナリンに対する感受性は海水ウナギの方が淡水ウナギより3倍も高い (Ando & Hara 1994)。海水ウナギにおけるアドレナリンに対する高い感受性は,ウナギの海水適応にともなってアドレナリン受容体の数が増えるか,または高親和性の新しい受容体が発現する可能性を示唆している。そこで^3Hでラベルされたclonidineを用いてreceptor binding assayを試みた。clonidineはアドレナリンより分解され難いagonistとしてしられており,ウナギの腸でもアドレナリンと同様の作用を示す (Ando & Kondo 1993; Ando & Omura 1993)。しかし,予想に反して,海水ウナギの腸におけるアドレナリン受容体は以外に少なく,ほとんど検出できない程度であった。そのかわりguanabenzに高い親和性を示す新規のclonidine結合部位(イミダゾリン受容体)があることを発見した。そこで次に,この新規結合部位のNaClおよび水吸収における役割を調べた。第1章腸上皮細胞膜の調整と[^3H]clonidineの結合 海水ウナギの腸をリンガー液で洗浄後,カミソリの刃で上皮細胞をはぎ落とし-80℃に保存した。この標品に10倍量の氷冷したbuffer (40mM Tris/HCL, 40mM NaCl, 100mM sucrose pH7.5) を加えホモジェナイズした。900xg 10分間遠心後上澄みを集め,12,000xgで30分間遠心し沈殿を回収し膜標本とした。結合実験は5mM MgC12を含むTris/HCl buffer中で行った。膜標品への[^3H]clonidineの結合は,高親和性 (Kd=1.4nM) と低親和性 (Kd=175nM) の少なくとも二種類の結合部位によるもおであることがわかった。高親和性の結合部位は20℃, pH7.5でclonidineと一番よく結合し,その結合は可逆的であった。しかし,[^3H]clonidineの結合はアドレナリン (AD), yohimbine, rauwolscineといったadrenoreceptorのagonistやantagonistによってほとんどおさえられず,guanabenzによって一番強く抑えられた。淡水ウナギの腸上皮細胞から調整した膜標品に対する種々の薬物の競合実験の結果,この結合部位の親和性はguanabenz>cirazoline=naphazoline=UK14,304=ST587≧clonidine≧idazoxan=RX821002=tolazoline≧ST93=oxymetazoline=amiloride=ST91>yohimbine=efaroxan=rauwolscine>AD=ST567=histamine=agmatineの順であった。以上の結果より,大部分の[^3H]clonidineの結合部位はアドレナリンの受容体とは考え難く,むしろほ乳類でいわれているイミダゾリン受容体によく似ていることがわかった。しかし,ほ乳類で分類されているI_1受容体やI_2受容体のいずれにも属さず,新しいタイプのイミダゾリン受容体だと考えられる。第2章海水ウナギの腸におけるイミダゾリン受容体の役割 海水ウナギの腸にイミダゾリン受容体が存在するとすれば,この受容体の役割は何であるのかを次に調べた。この受容体にはguanabenzが結合することが考えられるので,まずUssing chamberに挟んだ腸にguanabenzを作用させてみた。guanabenz (10^<-7>M) は腸のしょう膜側からも粘膜側からも作用し,しょう膜側陰性の経上皮電位 (PD) およびCl^-の能動輸送を反映する短絡電流 (Isc) を上昇させた。しょう膜側に加えたアドレナリン (AD) も同様の効果を示すが,粘膜側からはADは効かない。したがって,粘膜側からのguanabenzの効果はイミダゾリン受容体を介しているように思われる。guanabenzがADの放出を介して効いている可能性は,yohimbineであらかじめAD受容体をブロックしておいても粘膜側guanabenzの効果はみられることから,否定できる。guanabenz以外にもST93,clonidine,ST91,naphazoline,UK14,304が粘膜側から作用しPDとIscを上昇させたが,clonidine,ST91,naphazoline,UK14,304はguanabenzよりも高濃度を要した。guanabenzの効果は濃度依存的 (10^<-9>∿10^<-6>M) であり,RX821002やefaroxanを粘膜側に与えることによって完全にブロックされた。これらの結果は海水ウナギの腸の粘膜側にイミダゾリン受容体が存在し,この受容体が刺激されるとNaClと水の吸収が高まることを示唆している。じじつ,粘膜側のguanabenzは海水ウナギの腸のNa^+,Cl^-および水の吸収を高めた。
- 1999-12-28