<学位論文要旨>無脊椎動物生理活性ペプチドのアゴニスト及びアンタゴニストの開発
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概要
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第1章序論 無脊椎動物の生理活性ペプチドは,ここ20年程の間に,節足動物や軟体動物を中心として多数同定されてきた。これらは神経伝達物質,神経修飾物質あるいはホルモンとして生体機能の調節に大きな役割を果たしていることが示唆されてきた。しかし,脊椎動物の場合に比べると,それらの生理・薬理学的研究は遅れていると言わざるを得ず,その原因の1つとして,神経ペプチドのアゴニストやアンタゴニストの開発がほとんどなされていないことが挙げられる。特に,アンタゴニストによる活性阻害実験は,ある物質が生理的に働いているかどうかを明らかにするのに最も有効な手段のひとつである。神経ペプチドの特異的なアゴニストやアンタゴニストが開発できれば,細胞,組織または個体レベルでそのペプチドが果たしている生理的な役割の解明が飛躍的に進むことが期待され,特に,ある情報伝達物質の特異的アンタゴニストを得ることは,神経薬理学のみならず,神経生理学にとっても極めて大切である。アセチルコリンやセロトニンなどのいわゆる古典的神経伝達物質は,神経系を持つすべての動物でほぼ共通の物質が使われており,したがって,それらのアンタゴニストも,医学分野,製薬分野で開発されたものがある程度使用できる。しかし,神経ペプチドについては,無脊椎動物のものと脊椎動物のものとは大きく異なり,薬理作用から考えてその受容体も異なっていることは間違いない。したがって,神経生物学の発展のためには,無脊椎動物神経ペプチドの特異的アゴニストやアンタゴニストの開発が望まれる。そこで,無脊椎動物の生理活性ペプチドのペプチド性アゴニスト及びアンタゴニストの開発を目的として研究を行なった。第2章生理活性ペプチドの同定とその活性 どのような生理活性ペプチドのアゴニストやアンタゴニストを開発すればよいかを決めるため,まず最初に軟体動物とキョク皮動物において筋運動の制御などに関与していると思われる生理活性ペプチドの同定を行った。そして,これら同定ペプチドと既知のペプチドを比較検討して,対象とするペプチドを選ぶことにした。最初に,キョク皮動物のマナマコ,軟体動物のハマグリとヨーロッパマイマイから,それぞれの動物の筋を生物活性検定系に用いて,生理活性ペプチドの単離・同定を行った。その結果,これらの動物から約30種類の生理活性ペプチドを発見した。ナマコのペプチドはそのすべてが新型のものであった。しかし,その中で,Sticho-MFamide-1,2と名付けた2種のペプチドだけは,他のキョク皮動物から同定されているSALMFamide関連ペプチド族の同族体といえるペプチドであることがわかった。したがってSALMFamide族の仲間はキョク皮動物門に広く分布していると思われる。ハマグリとヨーロッパマイマイから発見したpQVPLPRYamideとpQPPLPRYamideは明らかに同族体であり,C末端部にPLPRYamide構造を共通に持つ新規の興奮性ペプチド族のメンバーが軟体動物に広く分布していることが示唆された。そのほかの軟体動物ペプチドは,すべてが既知の軟体動物ペプチド族のメンバーと言えるものであったが,アミノ酸配列は新規なものであった。第3章合成ペプチドライブラリーからの活性物質単離法の確立 無脊椎動物生理活性ペプチドのアゴニストやアンタゴニストを開発するのに最も有効な手法を選択し,その手法を最適化する目的で予備的研究を行った。その手法としては,化学・医学などの分野で医薬品となるためのリード化合物を迅速に得る手段等として近年注目を浴びているコンビナトリアルケミストリーと呼ばれる手法を選び,これを用いて合成したペプチドライブラリーから活性物質の単離を試みた。ペプチドライブラリーからの活性物質単離法を確立するために,まず,約250万種類の5残基ペプチドからなるペプチドライブラリーをマルチペプチド合成機を用いて作り,無脊椎動物の筋を生物活性検定系として活性物質を単離することとした(図1A)。しかし,このライブラリーは無脊椎動物の筋に対しては活性を示さなかったので,脊椎動物であるウズラの直腸に対する効果を調べたところ,興奮性活性が見られた。したがって,ウズラ直腸を生物活性検定系としてこれから活性物質の単離を試みることにしたが,このライブラリーにはあまりにも多数のペプチドが含まれており,したがって1種類あたりのペプチドの量が非常に微量で,活性物質を単離するのは困難であると思われた。そこで,次に,N末端のアミノ酸残基を通常アミノ酸のいずれかに決定し,含まれるペプチド数を約13万種類に減らした19組のライブラリーを作成し,これらの活性を調べた。その結果,N末端にArgあるいはLysを持つライブラリーに収縮惹起活性が見られた(図1A, B)。
- 1998-12-28