<学位論文要旨>ヤエヤマヒルギとメヒルギの初期生長と栽培条件に関する研究
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概要
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第1章序論 ヤエヤマヒルギやメヒルギ等のマングローブ植物は熱帯・亜熱帯の汽水域に生育するという特性ゆえに注目され,また近年,マングローブ林は沿岸地の生態系保全の見地から再評価されるようになった。本論文は西太平洋の代表的なマングローブ植物であるヤエヤマヒルギとメヒルギの種特性を明らかにし,また苗木生産技術の確立のための栽培の基礎的条件を探るのが目的である。第II章栽培条件下におけるヤエヤマヒルギとメヒルギの初期生長 過去の栽培実験から,ヤエヤマヒルギとメヒルギでは培養液にNa^+を汽水あるいは海水水準で含むことがその生長に抑制的に働くことが示されてきた。このことは生育地での環境条件と食い違う結果を示す。本実験ではこれを追試するため実生の生長の耐塩性に対する制限因子を栄養塩類に着目して栽培実験を行った。異なる塩分濃度条件下におけるヤエヤマヒルギとメヒルギの初期生長を調べるため,クノップ培養液を用いて栽培実験を行った。培養液の塩分濃度はNaClで0%,1.8%,及び3.6%に調整した。その結果,ヤエヤマヒルギ,メヒルギともに1.8%塩分区と3.6%塩分区で生長障害が現れた。一方,3.6%塩分区では葉厚の増加,葉中クロロフィル含有量の増加が観察された。このことはレギュレーター型の耐塩性植物の性質を持つことを示している。葉の化学成分については培養液中のNa^+濃度が増加するほど葉中のNa^+は増加し,反対にその条件下で葉中のK^+は減少した。ヤエヤマヒルギとメヒルギで実生の野外調査も併せて行った。その結果,葉厚,葉のクロロフィル含有量共に野外の実生の方が大きく,0%塩分区の栽培実生との間では有意差が見られたが,3.6%塩分区とでは有意差が見られなかった。葉の化学成分についてはヤエヤマヒルギで,Na^+,K^+,Ca^<2+>及びMg^<2+>の濃度は野外の実生と1.8%塩分区の栽培実生との間に有意な差がなかった。すなわち,Na^+,K^+,Ca^<2+>及びMg^<2+>は耐塩性の制限因子ではないと考えられる。次に真水区から急激に塩分区に変化させた時の栽培実生の反応を調べた。その結果,実生は処理後48時間目に委縮しはじめ,細根内で急速なNa^+の侵入とK^+の減少傾向が見られた。このことは真水区で栽培し続けた実生はレギュレーター型の塩生植物としての機能を欠いていることを示している。クノップ培養液には窒素源としてNaNO_3が含まれているがヤエヤマヒルギやメヒルギ栽培実生には窒素欠乏症が頻繁に現れる。そこで欠乏症の観察されるヤエヤマヒルギとメヒルギの実生に様々な栄養塩類の溶液を葉面散布し,その回復状況を観察した。その結果,欠乏症の回復は尿素区で確認された。本実験の結果,実生の窒素欠乏症にはアンモニア態の窒素の施用が有効であることが示唆された。第III章栽培ヤエヤマヒルギ実生のNaCl利用 今回の栽培実験で塩分処理条件下でクロロフィル含有量と葉厚の増加が認められたためヤエヤマヒルギがレギュレーター型の耐塩性植物であるとした。すなわち,適度の塩分濃度は本種の実生の生長に重要であることを示唆している。また栽培条件下で頻繁に現れるヤエヤマヒルギの窒素欠乏症には尿素溶液(アンモニア態窒素)の散布が有効であった。そこでヤエヤマヒルギ実生が本来の健全な生長をするためにはNaとアンモニア態窒素,これら陽イオンを利用するためのpHが重要であると推論し,それを証明する栽培実験を試みた。方法は異なるNaCl濃度,土壌pH及び尿素処理の有無の組み合わせ条件下で実生を栽培し, その生長を調べた。その結果,最大主軸長は実験開始60日目以後,常に1.8%塩分-0.5%尿素-弱アルカリ性処理区で観察された。また,生長にともなう葉の展開状態に基づき,生長段階を記録した。実験開始から160日目で最も生長が進んでいた処理区は1.8%塩分-0.5%尿素-弱アルカリ性処理区であった。実生の各器官の重量については栽培後180日目に測定した。生重量,乾重量いずれの場合にも1.8%塩分-0.5%尿素-弱アルカリ性処理区が各処理区の中で最大の重量と最小の茎/根比を示し,最も生長が良いことが示された。窒素欠乏症罹病率は1.8%塩分-0.5%尿素-弱アルカリ性処理区で最も低く他の全処理区と有意差が見られた。このことから実生が健全に生長するには弱アルカリ性の下で適当な塩分,尿素処理が必要であることが示された。第IV章名護市大浦川に植栽したヤエヤマヒルギとメヒルギの実生の生残率と死亡要因 ヤエヤマヒルギとメヒルギが野外で生育可能な場所での実生の生残率と死亡要因を調べるため植栽実験を行った。方法としては環境条件の異なる4つのスタンド(干潟,メヒルギ林,メヒルギ・オヒルギ混交林,オヒルギ林)に胎生種子を植栽し生残率と死亡要因を追跡した。また生長を調べるため植栽から1年後に採取し葉数及び乾燥重量を測定した。
- 1998-12-28