骨格筋のミオシン分子種組成および加齢にともなうその分布変化
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概要
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骨格筋線維はその収縮速度により,遅筋線維と速筋線維とに大別され,さらに速筋線維は,type IIa,type IId,type IIb線維のサブタイプに細分される。そして,それぞれに単一のミオシン重鎖(myosin heavy chain; MyHC)分子種が含まれている。近年,ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動法(sodium dodecylsulfate polyacrylamide gel electrophoresis; SDS-PAGE)でMyHC分子種を分離する際,MyHCIIBよりもわずかに移動度の大きな200kDaタンパク(MyHCIIb')が発見された。そして,筋の活動量が増大すると,MyHC全体に占めるこのタンパクの割合が増大すると報告されているが,どのような特徴をもつのかは不明である。また,異なるさまざまな骨格筋における分布状況も,加齢にともないどのような発現パターンを示すのかはわかっていない。これらを識ることは,筋収縮のしくみを解明していくことのみならず,筋の張力発揮における多様性およびその加齢変化ついても何らかの影響を及ぼすものと考えられる。そこで本研究では,ラット骨格筋を用い,このタンパクについての詳細な特徴や異なる骨格筋における分布状況を調べ,加齢にともなう発現パターンを明らかにすることを目的とした。1. MyHC分子種間の分離に関する電気泳動法の改良 まず,MyHC分子種分離に適した分離ゲルについて検討した。 MyHC分子種に関する多くの先行研究では,SDS-PAGEによる分離の再現性が低い。その原因として,分離ゲル中のグリセロールおよびアクリルアミドの各濃度が不適切であったことと,分離ゲルに濃度勾配をつけているため,分子量のちがいがわずかであるMyHC分子種の分離が確実にはなされなかったものと思われる。そこで,MyHC分子種の分離について,より再現性の高い泳動方法を分離ゲルに着目して検討を行った。 12週齢ラットを用い,すべてのMyHC分子種が含まれている足底筋についてSDS-PAGEによる分析を行った。その結果,分離ゲルに5-8%の勾配をつけたときよりも7%均一のほうが各分子種の泳動度の違いが大きかった。また,グリセロール濃度は37.5%よりも30%の方がより適していた。さらに,トリスバッファーのpHは8.6-8.8の間が適していた。これらの条件設定によって,既知の4つの成熟骨格筋MyHC分子種を分離することができた。2. 異なる骨格筋におけるミオシン重鎖分子種の分布 つぎに,上述の分離ゲル条件を用いてロングゲルを作製し,Wada et al. (1992)の報告したMyHCIIb'を完全に分離した。その抗原性を調べた結果,速筋型MyHC分子種の一つであることが示された。SDS-PAGEによってMyHCIID/Xの次に検出されたMyHC分子種であることからMyHCIIEと名付けた。MyHCIIEの分布をさまざまな骨格筋において調べたところ,足底筋,長指伸筋,肛門挙筋,腓腹筋外側頭表層部および深層部,外側広筋表層部および深層部においてMyHCIIEの発現が認められ,MyHC分子種全体に占める割合は肛門挙筋で最も多く(23.4%),腓腹筋外側頭深層部で最も少なかった(3.7%)。このことは先行研究において免疫組織化学的にMyHC分子種が新たに検出されただけではなく,また,これまでMyHCIIBとされてきたMyHCIIB+MyHCIIEに占めるMyHCIIEの割合が,Sawchak et al. (1992)の報告している新たな分子種と同一のものであるかどうかを検討した。外側広筋深層部および表層部,腓腹筋外側頭深層部および表層部,長指伸筋,肛門挙筋,足底筋,ヒラメ筋,横隔膜をSDS-PAGEに供し,得られた泳動パターンをデンシトメーターで定量化し,MyHC組成を比較した。実験から,以下の結果が得られた。(1)MyHCIIEが抗速筋型ミオシン抗体に対する反応を示した。(2)Sawchak et al. (1992)の発見したMyHC分子種を含んでいる筋だけでなく,ヒラメ筋以外の被検筋すべてにMyHCIIEが検出された。(3)MyHCIIE/MyHCIIB比は筋間で必ずしも同様ではなかった。これらのことから,MyHCIIEは速筋型MyHCと共通のエピトープをもち,Sawchak et al. (1992)のものとは別のMyHC分子種である可能性が示された。また,ヒラメ筋ではMyHCIIEが検出されなかったことから,少なくとも200kDaを超える分子量をもつタンパクの分解産物ではない。したがって,MyHCIIEは新たなMyHC分子種であると考えられる。3. 加齢にともなう骨格筋ミオシン分子種の発現パターン 外側広筋表層部のMyHCはそのほとんどがMyHCIIBであり,このほかに数%のMyHCIID/Xを含む。長指伸筋や前脛骨筋では,加齢にともない,MyHCIIBからMyHCIID/Xへと移行することがわかっているが,このMyHCIIBにはMyHCIIEも含まれているため,MyHCIIEが加齢にともなって移行するのかどうかは不明のままである。そこで,MyHCIIEに焦点を当て,加齢にともなうMyHCの発現パターンを調べた。
- 1997-12-28
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