防災緑地におけるニセアカシア群落の生態と管理に関する研究
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概要
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第I章序論 ニセアカシアは日本で大型帰化植物として成功した数少ない木本植物である。しかしその分布拡大や更新維持機構は不明であり,かつ,ニセアカシア群落に対しての在来植生への林相転換技術も確立していない。そこで本研究は,ニセアカシアが分布を拡大している防災緑地を対象として,その生物学的侵入の実態を把握するとともに,ニセアカシア群落の林相転換および,同群落を含めた流域レベルでの景観管理について考察することを目的とした。第II章防災緑地周辺におけるニセアカシア群落の分布拡大過程 治山緑化工としてニセアカシアが導入された長野県牛伏川流域を対象にエコトープ図を作成した。そしてニセアカシア群落の分布およびその集団枯損の発生の立地依存性とその集団枯損後の在来植生への遷移の可能性について検討した。ニセアカシア群落の分布は渓畔域に集中しそのパッチ面積が現存する植生型のなかで最も大きく,様々な立地にまたがって分布していた。したがって,当地のニセアカシアは河川を主なコリドーとし,撹乱の発生,波及に伴って分布を拡大してきたことが推察された。渓畔域での拡散は,主として種子の流水散布と実生更新によってなされ,それに後続する局地的な拡散は主として定着個体の根萌芽更新によるものと推察された。ニセアカシア集団枯損林分の大部分では,在来植生への遷移は停滞し,ニセアカシアの根萌芽による更新もほとんど起きていなかった。次に,ニセアカシアとケショウヤナギがともに分布する長野県梓川の下流域において,46年間にわたる渓畔域の景観構造の変化を調べた。ケショウヤナギ群落は主として,流路変動によって新規に形成され,他の樹木が存在しない中洲や,河岸段丘で分布を拡げていた。それに対してニセアカシア群落は主として河岸段丘のなかでも護岸に接する所でまず成立し,その後にヤナギ林やアカマツ林の存在する立地へと侵入していた。特に1975年から1989年にかけては景観の多様性が増大したが,これは中洲や河岸段丘が安定化し河原の面積が減少し,木本群落へと置き換わったことと,ニセアカシアの在来植生への侵入が進んだため植生型の種数が増加したことによるものであった。これらの景観構造の急速な変化には,上流部のダム建設による土砂流出量の減少や,ニセアカシアの薪炭や農業用品の支柱としての利用が途絶えたことなどが関係していると考えられた。ニセアカシア群落の分布拡大は,今後の自然撹乱の頻度・規模を縮小させ,他の渓畔林の更新の機会を減少させる恐れがあることも示唆された。またニセアカシア群落と,在来性木本種との混交群落の相対優占度の総計は,1994年にはすでに52%に達し,寡占状態となっていることから,今後もニセアカシア群落の急速な増加が進むことが予想された。さらに,石川県安宅国有林を対象として,海岸防災林に成立する成帯構造と植生構造を把握し,そのなかのニセアカシアおよびニセアカシア群落の位置づけを明らかにするためベルトトランセクト法による植生調査を行った。クラスター分析から合計11個の植生型を区分し,このうちニセアカシア群落には,優占度が低いながらもクロマツが混交し,林床で草本植物の優占するニセアカシア群落と,ニセアカシアが単独で林冠を優占し,林床で低木種が優占するニセアカシア-コウグイスカグラ群落の2型が認められた。植生帯は,打ち上げ帯,草本帯,小木本帯および木本帯の4帯で,その境界は汀線からの距離で29m,50mおよび158mであることが判った。ニセアカシア群落は,高木林にまで成長可能な群落でありながらも,木本帯よりはむしろ小木本帯要素の群落と判断され,在来植生により形成されるべき成帯構造に不調和をもたらしていた。またニセアカシア群落の種多様性は,在来群集やクロマツ群落の傾向とは反対に,環境傾度に沿って減少する傾向があった。このことからニセアカシア群落は草本帯,小木本帯の潜在立地に関しては,群集の種多様性を高める反面,木本帯の潜在立地においては,群集の種多様性を低下させていることが推察された。第III章樹形からみたニセアカシアの生態的特性 梓川下流域にはニセアカシアの除伐という人為的植生管理によって相観的にはケショウヤナギ-ニセアカシア混交林だった所がケショウヤナギの純林に誘導された区域が存在する。そこでこのケショウヤナギ林を対象に毎木調査を行った。ニセアカシアは除伐された後には,親個体ともケショウヤナギの樹幹とも離れ,かつ光環境の比較的良好な領域である林縁部に多数の根萌芽を分散させていることが判った。萌芽の樹幹の傾斜角度は林縁,林冠下の個体群でギャップ個体群に対して有意に大きかった。しかし根萌芽の傾斜角度は,全ての立地で大きい値を示し,立地間には有意差は認められなかった。
- 1997-12-28