インターロイキン 2 との融合タンパク質を利用した高免疫原性治療ワクチンの開発 : ヘルペスウイルス感染症への応用
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概要
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本研究の目的は,AIDSのような持続感染性ウイルス疾患に対する予防・治療ワクチンの開発のための新たな方法論を確立することである。研究はインターロイキン2 (IL-2)の優れたアジュバント活性に着目し,IL-2を標的抗原と遺伝子工学的に融合させ,融合タンパク質をワクチンとして利用するという極めて単純な発想からスタートした。しかし研究の展開とともに,この融合タンパク質には当初予想もしなかった次のような重要な特性が想定されるに至った。1)休止期のT細胞を活性化し抗原提示細胞となる樹状細胞の中にIL-2レセプターを介してとりこまれる。2)抗原提示機能が活性化された樹状細胞は,抗原特異的なT細胞の増殖,ならびに抗原特異的なT細胞キラー活性とヘルパー活性を誘導する。3)その結果,この融合タンパク質は単に標的抗原にたいする抗体レベルを高めるだけでなく,より基本的な細胞性免疫機能を活性化するという優れた免疫原性を発揮し,治療ワクチンとしても予防ワクチンとしても有効である。このように,本研究で開発した融合タンパク質を用いる手法は画期的な方法論であり,今後の多面的な応用が期待される。事実,IL-2と同様に樹状細胞にレセプターのあるGM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor)を癌抗原と融合させ,優れた移植癌抵抗性を誘導できたという報告が発表されている。本論文は7章からなっている。第1章では,本研究の目的,インターロイキン2を融合タンパク質の相手に選んだ経緯および標的抗原として単純ヘルペスウイルス1型糖タンパク質D (HSV-1gD)を選びその免疫原性と再発ヘルペス感染症モデルにおける治療効果を研究するに至った背景が述べられている。第2章では融合遺伝子の調製,融合タンパク質を高発現する細胞の選択,融合タンパク質の単離,精製について説明し,融合タンパク質の中のHSV-1gDおよびIL-2はそれぞれの生物活性をともに保持していることを示した。第3章では,この融合抗原の免疫原性をマウスを用いて評価した結果について述べている。即ち,1)単独投与で高い抗gD抗体産生を示し,2)HSV感染細胞に対する細胞性キラー活性およびgD抗原刺激後の遅延型過敏反応にみられる細胞性免疫を誘導し,3)gD-IL-2で免疫したマウスでは,ほぼ完全な感染防御を認めた。第4章ではモルモットにおける急性および再発性の***ヘルペス感染症をモデルとしてgD-IL-2の治療効果を検討し,紫外線で誘導される再発病巣の顕著な抑制,ウイルス接種後の急性の感染病変の悪化の顕著な抑制,長期間にわたる再発病変の防止,などを示した。第5章では,gD-IL-2を経鼻投与したマウスでは血中IgG抗体および鼻粘膜IgA抗体が産生され,全身性のウイルス感染を防御することを示した。第6章ではこの融合抗原の作用機作について考察した。最後の第7章では本研究のまとめと今後の応用について述べている。こめように,本論文は新しい方法論を用いて優れた予防・治療ワクチンを調製することに成功した画期的な貢献であり,今後の多面的な応用が期待される。
- 1996-12-28