アカマツ球果の分解過程における菌類相の変遷と菌類バイオマス
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概要
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第1章序論 菌類は,植物遺体の分解の主要な担い手であり,分解における役割や機能を具体的に解明するためには,菌類相や菌類バイオマスを把握することが必要不可欠である。植物遺体の分解過程における菌類遷移については,1950年代から,様々な植物種の落葉および材を主な対象として多くの研究がなされている。針葉樹の落葉の分解についても,マツを中心とする多くの樹種で活発に研究が行われてきた。しかし,針葉樹のリターの一要素である球果の分解過程における菌類相についてはほとんど明らかにされていない。球果は落葉に比べ分解が遅く,また,マツカサキノコモドキStrobilurus stephanocystis などそこに特異的に発生する担子菌類が存在することから,分解過程中の球果はそれ自体一つの特殊な生態系と考えられ,そこにおける菌類相の変遷は興味深い研究課題である。一方,菌類バイオマスについては,測定上の困難さなどからもほとんど何もわかっていない。本論文では,アカマツ球果の分解過程における菌類相の変遷および菌類バイオマスの動態を明らかにすることを目的とした。全体は5章からなり,第1章は序論である。第2章では,調査地の概要と球果の分解段階について述べた。第3章では,林床に実験的に設置した球果と林床に自然落下していた球果の菌類相を調査し,球果の分解過程における菌類遷移を明らかにした。第4章では,直接検鏡法(以下直接法)およびエルゴステロール含量の測定による球果中の菌類バイオマスの測定について述べた。第5章では,球果の分解過程における菌類遷移や,炭素・窒素の動態および菌類バイオマスの動態を相互に関連づけながら総合的に考察した。第2章調査地の概要と球果の分解段階 2-1調査地の概要 調査地は,広島県西部の佐伯町玖島の立地条件の異なるアカマツ林にい,A, B2ヶ所を設けた。A区は斜面中部に,B区は尾根部に位置している。高木層は,両区ともアカマツが優占し,亜高木層は,A区ではタムシバとシロモジが優占していたが,B区では明確に識別できなかったため低木層としてまとめた。低木層は,A区ではヒサカキとシロモジが優占し,B区ではコバノミツバツツジが優占していた。草本層は,A区ではヤブコウジが,B区ではイヌツゲが優占していた。A_0層は,調査期間を通じて,A区の方が厚く,湿潤であった。 A_0層とA層の境界の温度は,A区の方がやや低かった。リターとして供給された球果の量(kg乾重・ha^<-1> ・ yr^<-1>)と全リター落下量に対する割合(%)は,A区では28.1と0.6,B区では11.1と0.4であった。球果の落下量には,明確な季節変動は見られなかった。2-2球果の分解段階 球果の分解率は,A区で0.081yr^<-1>,B区で0.082 yr^<-1>であった。この値は,これまで報告されているアカマツ針葉の分解率の1/2以下であり,球果の分解速度は遅いことが明らかとなった。林床に実験的に設置した球果と自然落下した球果の乾重減少率,炭素・窒素含量の変化から,次のように球果の分解段階を規定することができた。乾重減少率が約10%まで,C/N比が約200以上の範囲は可溶性の低分子の糖などが溶脱する溶脱期であると考えられた。乾重減少率が10%を越え,C/N比が200以下になると,微生物量の増加により窒素が保持される保持期になると考えられた。乾重減少率が20%を越え,C/N比が150以下になると,微生物自体の分解により窒素が流亡する流亡期に移行していくと考えられた。第3章球果の分解過程における菌類遷移 3-1林床に実験的に設置した球果の分解過程における菌類遷移 樹上より採取した球果を実験的に林床に設置し,一定期間後回収し,洗浄法および表面殺菌法によりその菌類相を調査した。樹上の枯死した球果では,Pestalotiopsis spp.が優占していた.この菌は,林床に設置後も比較的高頻度で出現した。Xylaria sp.およびPhomopsis sp.は,表面殺菌法の場合に出現頻度が比較的高く,また,樹上の球果で比較的高頻度で出現したが,林床に設置後は出現が不規則であった。林床に設置後は,Mortierella spp., Pencillium spp.およびTrichoderma spp.などが新たに出現するか,その出現頻度が増加した。これらの中でTrichoderma koningiiの出現頻度は設置後著しく増加し,調査期間を通じて高頻度で出現し続けた。Thysanophora penicillioides は設置後の早い時期に高頻度で出現したが,65週後にはあまり出現しなくなった。3-2林床に自然落下した球果の菌類相 さらに分解の進んだ球果における菌類遷移を見るために,林床に自然に落下していた,より分解の進行した球果の菌類相を調査した。自然落下した球果のLおよびFH層の球果では,Mortierella spp., Trichoderma spp.およびPenicillium spp.の出現頻度が比較的高かった。自然落下した球果では, Chloridium spp.が比較的高頻度で出現したことが特徴的であった。3-3球果の分解過程で出現した菌
- 1996-12-28