<学位論文要旨>副腎皮質ミクロソームのチトクロム P-450 の構造と機能に関する研究
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概要
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副腎皮質はコレステロールを出発基質として,鉱質コルチコイド,糖質コルチコイド及び副腎性ホルモンの3種類のステロイドホルモンを合成分泌する。細胞内のミトコンドリア内膜と小胞体膜には,4種類のP-450とその電子伝達系が局在し,コレステロールはこれらP-450による特異的水酸化反応を受けてステロイドホルモンヘ変換される。精製P-450の反応の再構成系での解析は,界面活性剤あるいはリン脂質存在下のミセル系で行われてきたが,副腎皮質のP-450は疎水性の高い膜タンパク質であり,可溶化状態では酵素標品が不安定で失活しやすいために反応の詳細な解析が困難であった。そこで,オルガネラ膜類似の環境であるリポソーム膜系でのP-450の反応解析が必要とされてきた。この論文は,副腎皮質ミクロソームのP-450 (C21)とP-450 (17α, lyase)の2種のアイソザイムをそれぞれ人工膜脂質に組み込んだプロテオリポソームを用いて解析したP-450の構造と機能に関する研究をまとめたものである。本論文の第I編ではP-450の膜トポロジーについて論述した。肝ミクロソームP-450の場合は,N末端のペプチド部分のみを膜に挿入し,基質結合部位を含むタンパク質分子の大部分が細胞質側に露出した膜への結合様式が提出されている。しかし,このモデルではP-450が脂質二重層の疎水性領域に濃縮された脂溶性基質を代謝するという現象を説明しにくい。精製したウシ副腎ミクロソームのP-450 (C21)と,モルモット副腎ミクロソームのP-450 (17α, Iyase)をコール酸透析法で人工膜リポソームに組込んだプロテオリポソームとミクロソームを用いて,両P-450の膜内における存在様式を解析した。レーザーフラッシュ偏光解消法によるミクロソームおよびリポソーム膜中の両P-450の回転運動の解析結果では,これらのP-450の回転緩和時間が,1本のアンカーペプチドだけで膜に結合している膜タンパク質に比べて非常に遅いことから,これらのP-450分子はかなりのタンパク質部分を膜中に挿入して存在することが示された。トリプシンを用いてタンパク質分解を行うと,リポソーム膜を可溶化した状態では,両P-450標品は,電気泳動では確認できない低分子量のペプチド断片に分解されたのに対して,ミクロソームやリポソーム腹中のP-450 (C21)は比較的高分子量の3つのフラグメントに分解され,P-450 (17α, lyase)は全く分解されなかった。P-450 (C21)のペプチドフラグメントを精製してトリプシンによる切断部位を同定すると共に,限定分解後の膜中のP-450 (C21)標品の分光学的性質,酵素活性,安定性などを解析した。緑膿菌の結晶P-450 (cam)の立体構造に基づいて,これらの実験結果を説明するため,P-450 (C21)分子のかなりのタンパク質部分が膜中に組込まれているモデルを提示した。膜中ではトリプシンで切断を受けないP-450 (17α, lyase)もP-450 (C21)と同様に,膜中にタンパク質分子のかなりの部分が挿入された結合様式をとっているものと考えられる。第II編では,P-450の機能に関して,P-450 (17α, lyase)が触媒する連続的水酸化反応について論述した。P-450 (C21)はコルチコイド生合成に必須なステロイド21位水酸化反応を触媒する。P-450 (C21)については既に反応機構の詳細な解析が膜再構成系でなされている。一方,P-450 (17α, lyase)の膜中の反応の解析はほとんどされていなかった。P-450 (17α, lyase)はプロゲステロンを基質として17α位水酸化反応を触媒してコルヂコイド生成経路の基質である17α-ヒドロキシプロゲステロンを生じると共に,C17-C20側鎖切断反応を触媒して副腎性ホルモンのアンドロステンジオンを生成する。P-450 (17α, lyase)のこのような活性調節機構を解明するためには,まずアンドロステンジオン合成経路を解析しなければならない。P-450 (17α, lyase)によるアンドロステンジオン合成反応には3つの機構が考えられる。第1は,プロゲステロンから1段階のみの水酸化反応によってアンドロステンジオンを生じる機構である。第2の機構ではプロゲステロンから1段階めの水酸化反応で生じた代謝中間体が,一旦酵素から解離して反応溶液中に蓄積した後,再び酵素に結合してアンドロステンジオンヘ変換される。第3の機構は,酵素から解離しない反応中間体を経由して2段階の連続的な水酸化反応によってプロゲステロンからアンドロステンジオンを生じる機構である(連続的水酸化反応)。放射性基質を用いた同位体希釈効果の実験結果から,P-450 (17α, lyase)は中間体を酵素の活性中心から解離することなく,プロゲステロンをアンドロステンジオンヘ変換していることが示され,第2の機構は否定された。第1と第3の機構のいずれによってアンドロステンジオンが生成されるかを決定するには,反応中間体の有無を明らかにしなければならない。
- 1995-12-28