<学位論文要旨>二核子系における異常共鳴の研究
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概要
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1949年,E. FermiとC. D. Andersonによる核子と中間子の散乱実験において,共鳴現象としてΔ粒子(J^p=3^+/2,M=1232Mev)が発見された。それ以降,たくさんの共鳴粒子が見い出され,素粒子と呼ばれる粒子の数が増大し,その"elementary"という概念に疑問が持たれるにいたった。これら共鳴粒子はバリオン族とメソン族に大別され,ハドロンと総称されている。核子と中間子の共鳴状態はバリオン,中間子と中間子の共鳴状態はメソンと呼ばれる。その後の研究により,現在では物質を構成する最も基本的な粒子は,クォークとレプトン及びゲージ粒子と呼ばれるものであることが判ってきた。そして,これらの粒子間の相互作用は,重力相互作用,強い相互作用,弱い相互作用と電磁相互作用の4種類あることが知られており,ゲージ理論として統一されつつある。ハドロンはクォークの複合状態であるとするクォーク模型が,実験的に検証されてきている。陽子と中性子の電荷の違いを導く為には,2種類のクォークが必要であり,これからアップ・クォーク(u)とダウン・クォーク(d)の存在が推論された。Λ粒子やK中間子などの奇妙な粒子と呼ばれるハドロンの存在から,ストレンジ・クォーク(s)がなくてはならない。その他に,様々の傍証からチャーム・クォーク(c),ボトム・クォーク(b),トップ・クォーク(t)の存在が確かめられるに至った。このようなクォークの複合状態としてハドロンの質量公式が導かれる。さて,これまで自然界において確認されているハドロンは全て,バリオン数(B)とよばれる内部量子数が0か1のものであった。バリオン数が1のものがバリオンであり,0のものがメソンである。バリオンは3個のクォークの複合系,メソンはクォーク1個と反クォーク1個の複合系として説明されることから,クォークのバリオン数はいずれも1/3となる。しかるに,バリオン数が0と1以外は許されないとする禁止則は見い出されていない。6個のクォークの複合系であるB=2のバリオン(異常共鳴またはダイバリオンと呼ばれる)が存在する可能性がある。ダイバリオンの存在の是非は,ハドロンのクォーク模型による描像及びクォーク・グルオンの力学である量子色力学の完成の為に重要な問題である。また,存在する場合,そのスピンとパリティの決定が課題となる。本研究の目的と方法は後に二つの研究テーマについて具体的に詳述するが,ダイバリオンの存在の是非の検証と,存在する場合のスピン・パリティの決定が,二つの研究テーマに共通する目的である。その柱となる方法は,概略次の手順に基づく。先ず低エネルギーにおいて伝統的な共鳴解析法である位相差分析法を中間エネルギー領域の解析に拡張し,解析プログラムを作成する。開発したソフト・ウェアを用いて,中間エネルギー領域の陽子-陽子散乱の実験データの解析を進める。次に実験の現状とこれまでの分析状況であるが,(1) 1978年にANLにおいて,陽子の入射運動量P_L =1.26と1.46GeV/cにおいて,pp(陽子-陽子)弾性散乱の縦方向偏極全断面積差Δσ_L= σ(⇄)-σ(⇉)と横方向偏極全断面積差Δσ_T=σ(⇅)-σ(⇈)の観測結果が発表された(1)。これらの実験データのエネルギー依存性に,幅が100Mev程度の共鳴的な構造が見い出された。これを契機として,このエネルギー領域におけるpp弾性散乱,pp-π^+d反応のデータの位相差分析(Phase Shift Analysis : PSA)が進められた。PSAによって決定された軌道角運動量ℓのS行列の複素平面上へのプロットは,アーガンドダイアグラムと呼ばれる。このダイアグラムがエネルギー上昇と共に反時計回りの振る舞いを示すことが,スピンℓの共鳴の存在の必要条件である。^1D_2と^3F_3の部分波振幅のアーガンドダイアグラムに反時計回りの振る舞いが見出され,共鳴状態(ダイバリオン)の存在の可能性が指摘された(2)。このアーガンドダイアグラムの反時計回りの振る舞いに対して,π,Δ粒子生成の影響の検討,πNNあるいはNΔ相互作用による解釈,三つのチャンネルに対するK-行列同時解析等様々なモデル解析も行われている。1980年代に入りSINにおいて,T_L=447,473,497,517,539,560,579MeVでpp弾性散乱に於いて完全実験を目指して,double-spin,triple-spin correlation paratmetersの測定実験がなされた(3)。さらに1990年代に入りLAMPFに於いて,T_L=735MeVのpp散乱でこのSINと同種の実験が行われた(3)。その結果,T_L=447-580Mevと735MeVのエネルギー領域では,pp散乱の散乱振幅が精度良く決定できる可能性が生まれ,幾つかの試みが為されている。また,T_L=834,874,934,995,1095,1295,1596,1796,2096,2396,2696MeVでSATURNEにおいて同種の実験が行われている(3)。
- 1995-12-28