『斉東俗談』の基礎的考察
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概要
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本稿では『斎東俗談』の書誌, 編集方針, 記述方式などの基礎的考察を試みた.『斎東俗談』に関しては現在それ自体を取り上げた論文はもとより, 解題・解説としても言及する辞書の類は非常に少ない.しかし, 本書は稀〓本の類ではなく, 後刷りや写本が多く現存し, 引用された跡を見ても, 明治時代までは活用されたようで, その価値を見直す必要がある.考察の結果, 本書は一種の俗語中心の漢字語辞典の性格を持っていると考えられる.特色は俗語として著者が収集した当時の日本語と漢字表記との対応の在り方, すなわち漢字語の分類を試みたことである.俗語の範囲からモノの名を収録の基準から外しているため, 収録語数は多いとは言えないが, 極力, 出典に遡ろうという姿勢と俗語にマイナス評価を下さない態度は客観的である.それが時に出典の列挙にとどまる場合もあるが, 個々の記述をたどれば, 結果的に日本漢字の用法を史的に解明する場合には有効である.辞書としての組織・体裁も非常に整備されていると判断される.特に, 凡例の価値は高い.また, 編集方法の考察で「単字之部」に, 萌芽的ではあるが, 新井白石に先だって日本漢字の性格に論が及んでいることは注目される.後の日本漢字に関する考察とも合わせて考えていくべきである.さらに, 「仮名」「点」などの表記関係の用語を記載・記述する点も銘記すべきだろう.その一方で, 凡例と本文との間では編集方針が徹底されていない箇所も多く, 見出し語に対応する説明部分が空白として残されている箇所も残っており, 各部内の見出し語の配列も一定の基準がなく, 辞書としては検索上好ましいものではなく, 江戸時代初期の辞書としては, 組織的に整っており, 資料性も高いと判断される.今後は個々の語彙と文字についての解明が行われるべきである.
- 早稲田大学の論文
- 1994-03-25