文末表現と視点
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
小稿の目的は, 「はずだ」「わけだ」を例として, 日本語の文末表現の分析に生かせるような, 新たな視点の概念を模索することにある.(なおここでは, "事物に対する話し手の見方"を「視点」ととらえているため, 従来の「視点」よりも広い概念を含んでいる.)まず, 寺村(1984)による"概言""説明"という観点が不十分であることを検証したうえで, 「わけだ」「はずだ」が非常に近似した用法を示す場合, その違いを明らかにするために「視点」の概念を導入することを提案する.「視点」の概念のうち, これまで文法研究で主に取り上げられてきたのは「心理的視点(感情移入)」であるが, それだけでは説明しきれない文法現象を統一的に処理するため, 従来の「視点」に混在していた「視座(どこから見ているか)」と「注視点(どこを見ているか)」の二つの概念を厳密に区別する.さらに, 文末表現とのかかわりに関しては, "前提→(推論/認識)→結論"といった思考の流れを, 話し手の視点の一種ととらえることはできないかと考え, これを「論理的視点」と呼んだ.この「論理的視点」と先の「視座」「注視点」の概念を用いて文末表現の分析を試みようというのが小稿の主眼である."概言"の「はずだ」には, 普通の概言を表す用法と不審・不可解を表す用法とがあるが, その違いは視座の位置の違いによるものであること, "納得"の「わけだ」と「はずだ」は同様の文脈でも用いられるが, 「わけだ」の視座が結論側にあるのに対し「はずだ」の視座はむしろ前提側にあると考えられること, などについて私見を述べた.否定・テンス形式と視点との関係や, 「論理的視点」という考え方自体が成り立つかどうか等, 残された課題は多いが, 視点が文末表現の分析にも有効な手段となり得ることだけは確かである.
- 早稲田大学の論文
- 1993-03-25
著者
関連論文
- 複合辞研究史II 初期の複合辞研究 : 水谷修・佐伯哲夫の複合辞研究
- 複合辞の認定基準・尺度設定の試み
- 文末表現と視点
- 田中寛著, 『複合辞からみた日本語文法の研究』, 2010年3月30日発行, ひつじ書房刊, A5判, 632ページ, 9,800円+税