地域と霊の実在 : 1990年代におけるプロテスタント教会の地域観
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概要
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1990年代におけるプロテスタント教会の地域観を,聖霊第三の波と呼ばれるグループの神学者や実践家の論を中心に紹介した。プロテスタント教会に地域に対する意識が芽生えてきた背景には,20世紀初頭に始まったペンテコステ運動,および1960年代以降活発化したカリスマ運動など,超自然的な現象をキリスト教に回復させようとする聖霊刷新運動があった。福音派は,当初聖霊刷新運動に対して否定的な見解を取ってきたが,1980年前後より,宣教の現場で聖霊の力の必要性を実感した一派が,聖霊第三の波という名称でこの運動に加わった。聖霊第三の波の主導者であるワグナーは,地域に霊が実在することを前提に,地域の霊に対して戦略的に戦いを挑む実践的な教理を打ち立てた。この霊的戦いが地域をめぐって繰り広げられるものであるために,宣教のための基礎資料として霊的地図作りが行われ,祈りが地域に向けられるようになった。彼らにとって,地域は地域を構成する諸要素の総和以上の実体であり,神によって目的を持って造られた,人格とも呼ぶべき地域性を持つ存在である。宗教的勢力の拡張が顕在化し,地域をめぐる霊的戦いを繰り広げた20世紀末の状況は,21世紀の世界の文化地理を理解する上で,目的論的かつ実在論的な宗教的地域観の分析が鍵となることを暗示している。
- 三重大学の論文
- 2001-03-25