強迫症の精神分析学的治療における自己愛病理の積極的側面
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概要
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筆者は,強迫症状を主症状とする病態水準の異なる3症例を精神分析的精神療法で治療する経験を持った。病態水準の低い2症例が強迫症状を呈しながら分裂病に至らなかったことに関して,自己愛の病理,母子関係の観点から考察した。各症例の主たる病態水準は,一例は境界パーソナリティ水準,もう一例は自己愛パーソナリティ水準,最後の一例は神経症水準と考えられた。前2例においては,時に自我境界があいまいになるなどの前精神病的な病理をうかがわせた。しかし,彼らが分裂病を発病するに至らず,強迫症状でもちこたえたのは,幼少期にある程度の自己愛的満足を得られた体験から,自己愛的充当によって自我がそれ相応に育っていたためと考えられる。彼らの母子関係は,自己愛的母子関係であった。そのために,彼らは充分に自己を発展させることができる状態にはなく,その母子関係が,彼らの人格障害の素因となった。しかし,Bateson,Gが分裂病の温床と指摘じた二重拘束的親子関係ではなかった。自己愛な母子関係のもとでは,彼らが母親の価値観に従っておれば,母親から一定の愛情を受けることができ,それによってその範囲内において自己価値感情が保障され,自我もある程度のレベルまで発達できた。すなわち人間存在の出発点としての自己愛的な基礎か育っていたため,分裂病発病に至らなかったと考えられる。