聴覚障害児の音楽認知
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概要
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特殊教育諸学校における音楽教育を考える時,その指導法は障害の違いに応じて工夫されなければならない。聴覚障害児の場合,音楽が不可視である「音」を扱う芸術であるゆえ,特殊教育の中でもさらに創意工夫が必要とされるであろう。ところが,聴覚障害児の音楽に関する研究は意外に少ない。特に,曲そのものを聴覚障害児に聴かせ,そのきこえを物理的また心理学的に検討した研究は見当らないようである。本研究では,4つの楽器音量と周波数成分を変化させ,「愛のコリーダ」,「イエスタデー」,「オーメンズ・オブ・ラブ」の3曲を録音し,旭川聾学校中学部に在籍する3名の生徒と健聴者7名を対象にして,音楽のきこえの物理的特性を調べ,両者の違いについて音圧と周波数成分から分析を行い検討した。これらの資料から得られた結果は,(1)音楽を裸耳で聴いた時の快適レベルは,純音による快適レベルの500Hz〜2,000Hzの範囲にあること,(2)補聴器を装用した時より裸耳のほうがダイナミックレンジが広いこと,(3)楽器音の弁別は補聴器を装用した時より裸耳のほうが容易であること,(4)聴覚障害児は,健聴者に比べるとダイナミックレンジは狭いが,楽器音量のバランスや音質の好み,反応のし方については両者に違いが認められないこと,などであった。以上のことから,聴覚障害児の音楽のきこえは健聴者と幾分違うにせよ,音楽を聴き楽しむという点では我々となんら変わらないということが判明し,当初予測していた「聴覚障害児にとって,特別な音楽があるに違いない。」という考えは,再検討が必要となった。
- 北海道教育大学の論文
- 1987-03-15