自閉症児における象徴機能の獲得過程
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
1943年米国のKanner, L.は11例の「情緒的接触の自閉性障害」という報告と,次いで28例の同様の症例を追加しそれらを総称して「早期小児自閉症」と呼んだことに自閉症概念のはじまりがある。その定義及び診断について現段階では米国精神医学会の設けたDSM-IIIに妥当性があるとされている。しかし,その本態についての定説はなく,近年太田によって次のように整理されるに至った。「何らかの自閉症を起こす原因があり,その原因が脳のある゛特定の部位″に障害をひき起こし,表象機能の形成に著しい発達障害が起こり,認知過程,情緒過程の発達障害を受け,外界との゛適応″において自閉症状を形成する」。そこで本研究では,黒丸の論文をもとに象徴機能の発達の様相を探り,これを主軸に,ことば,情動,自閉症状を7名の自閉性障害児について観察調査した。これらの資料から得られた結果は,1)象徴機能の発達水準と自閉症状の発現のしかたの間に関連があること,2)この象徴機能の障害が彼らの発達の早期より認められること,3)象徴機能とことばの発達の間に関連が認められること,4)象徴機能が育つにふさわしい対象関係を支えるであろう情動の発達に著しい歪みのみられること,である。このような結果は,自閉症の基本障害を対象関係における象徴機能の障害とみなす手がかりになると考える。更には,このような観点から諸種の治療技法の,象徴機能発達水準に対応した体系化がなされ得るならば,自閉症の治療に新しい方途を見出すことができよう。
- 北海道教育大学の論文
- 1986-03-15