マダイの品種改良に関する研究
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概要
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マダイ, Pagrus majorは, 色が赤くて美しく, 形が整い, 正に魚の王様のイメージが強い。またその赤い色から, 我が国では古くから慶事にはかかせない魚として最も珍重されてきた。マダイの養殖も我が国では盛んに行われており, その養殖生産量はハマチに次いで多く, さらに養殖用種苗生産の尾数は第一位を誇っている。しかしながら, 近年の不況, 魚病の蔓延, さらには生産過剰による市場価格の低迷などにより, マダイの養殖経営は厳しい状況にあり, コスト削減や商品の差別化による市場価格の向上に繋がるより優れた形質を備えた養殖用品種の確立が望まれている。こうした背景から, 本研究では選抜, 染色体操作および性統御によるマダイの品種改良について検討した。I.30年間に亘り選抜育種されてきたマダイ(以下, SSと略記)および選抜育種されていないマダイ(以下, NSと略記)を用いて, 遺伝変異および外部形態を比較するとともに, 異なる給餌条件で両系統を飼育し, 成長, 飼料効率などを調べた結果, (1)SSにおける低頻度遺伝子の消失が示唆されたが, 平均ヘテロ接合体率の観察値およびその観察値と期待値との比には両系統間で差がみられなかった。(2)SSはNSに比べ胸鰭および尾鰭が小さく, SSはNSよりも遊泳能力が劣ることが推察された。(3)SSはNSに比べ, 飽食給餌した場合に摂餌量が多く, さらに飼料を消化・利用する能力が高いこと, およびSSでは制限給餌した場合に飼料脂質をエネルギー源として利用しタンパク質を蓄積する能力が高いことを反映して, 飼料効率およびタンパク質効率が高いことが推察された。II.染色体操作により雌性発生二倍体およびクローンを作出して, それらの養殖価値について検討した。1.マダイ卵と紫外線処理(3,000erg/mm^2)により遺伝的に不活性化したイシダイ(Oplegnathus fasciatus)精子とを媒精後2群に分け, 一方は3分後に1℃で30分間の低温処理を施し第二極体放出阻止型雌性発生二倍体(以下, meiotic-G2Nと略記)を, もう一方には46分後に700kg/cm^2の高水圧処理を5分30秒間行い第一卵割阻止型雌性発生二倍体(以下, miotic-G2Nと略記)をそれぞれ作出した。通常二倍体, meiotic-G2Nおよびmitotic-G2Nの孵化率および正常孵化率は, それぞれ86.5および94.9%, 38.1および45.8%, および12.8および35.0%であった。mitotic-G2N誘導の成否はアイソザイムマーカー分析により確認した。91日齢稚魚の魚体重, 標準体長および体高の標準偏差, 分散および変動係数はいずれもmitotic-G2N>meiotic-G2N>通常二倍体の順であった。mitotic-G2Nの胸鰭および尻鰭軟条数の分散は通常二倍体よりも有意に高かった。変形魚の出現率もmitotic-G2Nで最も高かった。mitotic-G2Nおよびmeiotic-G2Nの生残率および成長は通常二倍体よりも有意に劣っており, これらを養殖用品種として直接用いるのは困難であると考えられた。両雌性発生二倍体とも成魚期の3歳まで生残した。2.mitotic-G2Nを親魚として2種類のクローンマダイを作出した。1尾のmitotic-G2N雌から得た卵を2群に分け, 一方には雌とは異なる親魚から作出されたmitotic-G2N雄から得た精子を媒精しヘテロ接合型クローン(以下, ヘテロクローンと略記)を作出した。もう一方にはUV処理したイシダイ精子を媒精後低温処理により第二極体の放出を阻止してホモ接合型クローン(以下, ホモクローンと略記)を作出した。通常二倍体雌雄1尾ずつより卵および精子を得て通常二倍体(以下, ノーマルと略記)を作出し対照とした。ホモクローンの孵化率, 生残率および正常はノーマルに比べ著しく劣ったが, ヘテロクローンのそれらはノーマルとの間にほとんど差がみられなかった。3.2で作出した魚のクローン性をマルチローカスDNAフィンガープリント法により確認した。ノーマルの個体間でDNAフィンガープリントのバンドパターンは異なっていたが, ヘテロクローンおよびホモクローン内ではそれぞれ個体間のバンドパターンに変異はなかった。また, ホモクローンおよびクローン作出に用いたmitotic-G2N雌親魚のパターンは全く同じであり, さらにホモクローンにみられたバンドはすべてヘテロクローンにおいても確認できた。従って, ヘテロクローンおよびホモクローンのクローン性が確認されたとともに, mitotic-G2Nからのクローン作出が示された。4.クローンマダイの養殖魚としての価値を評価する目的で, 外部形態, 筋肉の化学成分組成および性比を調べノーマルと比較した。その結果, ヘテロクローンは大きさやその姿形において変異が少なく, 水産養殖における種苗の均質化に有用であると考えられた。一方, ホモクローンにおける外部形態の計測的形質の変動は, ノーマルと同等かそれ以上の高い値を示したことから, 養殖用種苗としての特出した有用性は確認できなかった。両クローンマダイの背側肉の一般成分, 非タンパク態窒素含有量および脂質組成の分散および変動係数
- 2002-03-25