生体触媒の化学工業への導入
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概要
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今日のバイオインダストリーは、アルコール発酵をはじめとする醸造発酵工場に端をはっしていると言えよう。発酵工場は、アルコールから有機酸(酢酸、クエン酸など)、有機溶媒(アセトン、ブタノールなど)の生産目的とする化学工場へと発展していった。そしてペニシリンの発見とその発酵生産法の確立が契機となって微生物利用技術は大きく躍進、発展を遂げた。その後、微生物利用工場は勢いついた潮流となて抗生物質、アミノ酸、核酸という3つの大きな山を乗り越えて、工業として確固たる地位築に至る。これらの成果を通じて、微生物利用工場は専らファインケミカルズの生産を対象とする特徴を呈した。従来より、微生物を用いた生産法は化学合成法を凌ぐ場合や競合する事態もしばしばあった。しかし1950年以降の石油化学工場の著しい発展に伴い、大量生産型の化成品を対象とする化学工場においては微生物利用技術は大した意味を持たなくなっていった。しかし、最近になり、微生物反応を化学工場に積極的に導入し、利用しようとする試みが盛んになってきた。これは微生物を触媒として用いる培養、反応系は効率および特異性において化学反応を凌駕し、生成物に純度が高いこと、反応が常温、常圧の温和な条件で行われ環境適応型プロセスであること、生産プラントがコンパクトであり、効率的な省エネルギー型プロセスであることなどに因ることが挙げられる。また今日の地球環境問題を考える時、バイオプロセスは化学工場において、新たな意義を見いだしつつある。さらに遺伝子組み替え技術の著しい発展により、従来の障壁に突破口を開く可能性も具体化しつつある。しかしながら、バイオプロセスの開発は時間がかかるのを常としており、実際の向上化例はまだまだ数少ない。バイオプロセスによってたとえ有用物が生産できても、従来の化学合成プロセスに比べて経済的利点があるのか、新たな設備投資をしてでも採用すべきプロセスなのか、が常に問題となる。本報では、生体触媒を用いた最近の代表的な工場化研究が紹介されている。またここで微生物生産の化学工場における位置付けを概略して述べ、筆者が長年取り組んできた典型的な大量生産型化成品、アクリルアミドの工場生産の開発研究を紹介しつつ、化学工場における生体触媒の問題点と展望を述べてみたい。Microbial processes for industrial production of commodity chemicals are rapidly gaining practical significance for preparation of high purity products, in an environmentally acceptable manner, while realizing energy savings. The use of bacterial nitrile hydratase for industrial production of the important chemical, acrylamide, was recently pioneered in Japan. We review here the enzymatic production of acrylamide and recent progress in the production of other commodity chemicals through microbial processes.