スギの黒粒葉枯病に関する研究 I(林学部門)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
スギの黒粒葉枯病については, 沢田によつて東北地方における調査の結果が, また伊藤によつて群馬, 埼玉両県におけるものが報告されている。紺谷は岡山, 京都の被害地における調査を行ない, 病原菌Mollisia cryptomeriae SAWADAについて種々研究を行なつている。筆者は本学大野演習林における本病について, その発生状況と病徴ならびに, 子のう胞子の発芽についての実験を試みた。本病は気象的に降水量が多く, 霧がよく発生するような陰湿な地方で, しかも, 除伐, 間伐, 枝打などが十分行なわれていない林分に多く発生するものである。大野演習林においても, 林内を貫流する味噌淵川の両岸にまず発生し, 徐々にスギ造林地一帯に蔓延の兆が見られる。罹病状況は, 樹冠の下枝の部分から上方へ, また内部から外部へと進行し, 罹病した枝葉は赤褐に変色し, やがて脱落する。新梢が伸長する晩春から初秋にかけては, 樹冠の変色部が目立たなくなるが, 秋深まるにつれて, また以前より一層赤褐色部が著しく目につくようになる。変色した葉の表面には黒色の突起粒状物(病原体)が着生しているのが見られる。これには8個の子のう胞子をもつ子のうが内蔵されている。この粒状物は, まだ緑色を残している葉の面には少ないようである。子のう胞子の発芽試験については, これをしよ糖溶液中で行なつたところ, 濃度については0.1,0.5,1.0モル溶液の場合, 1モルのもの最も発芽率がよく, 温度については23∿25℃が最もよかつた。35℃ではいずれの濃度においても, 発芽したものがなかつた。これらのことから, 濃度は1モルあるいはそれより濃いものの中が発芽よく, また発芽最適温度は23∿25℃付近に, そして発芽限界温度は30∿35℃の間にあるものと思われる。
- 1963-09-01