<教養科論文>ハントケ『不安』における言語と現実の関係について
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概要
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ぺ一ター・ハントケは彼の作家としての経歴を, 現実をいかに自然に再現するかに主眼を置くいわゆる写実的な文学を批判することから始めた。現実そのものと, 表現されたことばにおける現実は異なるという視点に立つ, 彼の方法・形式重視の考え方の, どこに新しい点,があるのか, またそれが実作にどのように実現されているのかを, この論文では, 『ペナルティ・キックを受けるゴール・キーパーの不安』に焦点を絞って, 以下の順で考察した。(1)文学とは現実そのものと別の次元で働く非リアリスティックなものであるというハントケの主張自体は, 今日では特に独創的なものではないが, 言語そのものを対象として, 一作ごとに新しい方法で, それを文体に実現させる試みは極めて新しい。(2)『不安』の描写からは, 論理的な構造として, モノとコトバの強制力のはざまで途方にくれた人間の姿が見て取れるが, それだけではこの作品の評価において, まさにハントケが批判した実体論的な誤ちを犯すことになる。(3)『不安』の真の狙いと作用は, そのことばの表層における読者に対する強制力であり, この作品では, ハントケが主張する, 描写する(beschreiben)のではなく, 生起させる(bewirken)コトバの作用が見事に実現きれている。
- 岐阜薬科大学の論文
- 1986-06-30
著者
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