<平成 13 年度(2002 年 3 月)修士論文要旨>個人破産における債務者の更生 : 金利規制と倒産制度
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概要
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近年, 自然人, すなわちいわゆる一般個人の自己破産申立件数が増加していおり, 大きな社会問題となっている。この自己破産件数の増加の理由には, 「多重債務」によって支払不能に陥った債務者の数が増加したことがあげられる。多重債務とは, 貸金業等からの金銭の借入れやクレジット利用により発生した債務が本人の返済能力を超え, そして債務の返済のためにさらに借金をして債務が重なることをいう。この多重債務の理由には, 遊興費のための借金, クレジットカードの利用による自己の返済能力を超えた商品の購入がある一方, 生活費のための借金や悪質商法により商品, サービスを契約させられたため等の様々なものがある。そして, 「消費者信用」は年々その市場規模を拡大させており, 多重債務者の増加の一因となっている。この消費者信用とは, 「消費者に供与された信用」のことであり, 大きく販売信用と消費者金融に分けることができる。またその一方で, 消費者信用は今や消費生活に不可欠なサービスになっているともいわれる。まず, 多重債務の原因となる消費者金融の高金利について検討する。わが国においては, 年29.2%以上の金利は利息制限法第1条により無効であり, さらに出資法第5条にも違反して処罰の対象となる。しかし, 出資法による罰則金利以下で利息制限法の上限金利を超過する利息について, 債務者は支払いの義務を負わないけれども債務者が任意に支払った場合には, 貸金業規制法第43条により有効な弁済とみなされ, 支払った利息の返還を求めることができない「グレーゾーン」といわれる曖昧な利息部分が存在している。次に, わが国の倒産法制において個人債務者が利用可能である破産法による免責手続を検討する。破産手続は, 倒産者自身または債権者の申立てによって始まり(破産法第1条), 倒産者自身が破産を申立てる場合を自己破産という。そして破産者が個人の場合は, 破産終結後の残債務について責任を免れること, すなわち免責を申立てることができる(同法第366条ノ2)。その際, 裁判所は免責の許否についての裁量が認められるので, その判断基準が問題となる。免責不許可事由(同法第366条ノ9)のうち射倖行為(同条第1号)および詐術を用いた信用取引(同条第2号)についての判断基準を債務者の経済的更生および債権者と債務者間の衡平を同時に図るという観点から, 検討する。続いて, 民事再生法における個人再生手続, すなわち小規模個人再生および給与所得者等再生に関する特則(民事再生法第13章)を, 債務者の経済的更生および債務者と債権者間の衡平の面から, 破産免責手続および特定調停法による特定調停手続と比較検討する。さらに, 消費者信用が早くから発展し個人破産も多いアメリカ合衆国における消費者信用の事例とわが国におけるそれとを比較する。また, わが国の倒産法制制定の際に参考とされたアメリカ連邦倒産法とわが国の倒産法制を比較検討する。上記の検討の結果, 個人破産を防止し, さらに個人破産において債権者と債務者間の衡平を保ちつつ債務者の経済的更生を図るためには, 次のことが必要であることがいえる。(1)倒産予防措置として, 消費者金融市場を適正化する必要があり, そのためには消費者の無知に乗じて過払いを容認しているグレーゾーンの金利を狭め, さらには違法なヤミ金融とそれに頼らざるを得ない消費者を消費者金融取引から閉め出すため, 出資法による金利規制を強化するべきである。その一方で, 貸金業者間の競争を促し, これによって金利を低水準に保つため, 貸金業規制法における登録要件や事業報告書の届出を消費者保護に支障をきたさない範囲で緩和するべきである。(2)破産法における免責制度は, 資産も収入もない債務者の経済的更生を図るためには有効であるが, 債務者の経済的更生および債権者と債務者の衡平の両立は, 免責不許可事由の構成要件の該当性を厳格に解釈することによって可能となる。(3)債務者の経済的更生および債権者と債務者の衡平が両立できる民事再生法に基づく個人再生手続を有効に活用するためには, 手続認可要件および計画遂行が極めて困難となった場合の免責についての要件を緩和するべきである。そして, 資産と収入を持つ債務者が破産法における免責を濫用的に選択する可能性があるので, 個人倒産手続を一本化して, 弁済可能な債務者には再建型手続を, そうでない債務者には免責を与える再建型手続を基本とする制度にすべきである。
- 2002-03-20
著者
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