児童虐待 -「育てにくさ」を訴える事例から予防を考える-
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
最近に至り, 実親等による児童虐待は, 年々増加の傾向にあり, 対応策の樹立が急がれる。しかしながら, 我が国の児童虐待研究は, 海外の研究に刺激されながら緒についたといってもよい状況である。新しい研究によると, 児童虐待の原因は家族病理にもとづくもの, 児童虐待の加害者は, かつてその親からの被虐待児であった例が多いと報告されている。我が国の場合, 今日の児童虐待の増加は, 激しい養育環境の変化とそれに伴う家族機能の変容によると考えられる。したがって, 児童養育上の諸問題の解決は焦眉の急である。この小論では, 児童虐待予防を主眼として, 母子共に虐待による深刻な心的外傷を残さぬうちに, なんらかの精神的・社会的援助を提供することが必須と考え始めたものである。適切な援助がなければ, 児童虐待へと進行しかねない児童虐待予備群と思われる「育てにくさ」を訴え, 子供に攻撃を加える臨床例を通じて, 家族機能の変化, 母親のニーズ, 精神的・社会的援助上の問題点等を明らかにしようとした。その結果, 自己実現・自己主張にめざめつつある母親の訴えを緊急且つ共感的支持的に受けとめる相談援助体制の地域的確立が急がれることがわかった。
- 1998-08-05