俳句翻訳における諸問題
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概要
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翻訳者の役割という問題は,しばしばあいまいなままにされている。翻訳という行為自体は過小評価されながら,その結果にたいしては非現実的な期待が寄せられることが多い。本論は,翻訳に際して生じる問題点について考察したものである。筆者が最近手がけた現代俳句集の和文英訳を例にとり,文法,文学的技巧,語調,雰囲気が,日本語の原文と英語の訳句とでどう異なるか,また,そのような違いが,翻訳されたそれぞれの作品にどのような効果と影響を与えるかが分析される。結論として,翻訳という形の異文化間コミュニケーションは,完全に「忠実」な作業ではあり得ない。原文をそのまま他国語で再生しようとする試みは,常に,翻訳言語の文化,歴史,文体的特徴や言葉のもたらす連想などの介入を受ける。翻訳文は,正確に言えば,原文と平行に存在するのである。優れた翻訳は,原文から離れることがあっても原文を評釈し,その内容をより豊かにする創造的な活動なのである。