正常上皮細胞と変異上皮細胞間の相互作用とその臨床応用
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概要
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発がん過程において,上皮細胞層に生じた1つのがん細胞(変異細胞)は周りを正常上皮細胞に囲まれた状態で増殖していく.ショウジョウバエでは,正常上皮細胞と変異細胞の境界において生存を懸けた競争が起こることが報告されている.一方,他の動物種でも同様の現象が起こるのかは長い間不明であったが,最近になって,ほ乳類においても正常上皮細胞と変異細胞の境界で様々な現象が起こることが明らかになってきた.たとえば,ある種のがん遺伝子が活性化した変異細胞と正常細胞の境界では,変異細胞が細胞層の頭頂側へはじき出されるように離脱することが示された.このとき,変異細胞内では複数のシグナル伝達系が活性化されており,周りの正常細胞の存在が,変異細胞内のシグナル変化と挙動に影響を与え得るということが分かった.また,ある種のがん抑制遺伝子のノックダウンによって変異した細胞では,正常細胞に囲まれたときのみアポトーシスが誘導され,細胞層の頭頂側へ排除されることが分かった.細胞層の頭頂側とは,生体内では管腔側にあたるため,がんが浸潤する方向の反対側と見なすことができる.つまり,正常上皮細胞には抗腫瘍能力が備わっており,変異細胞の管腔側への離脱もしくはアポトーシスの誘導等により,異常な細胞から生体を守っている可能性がある.さらに細胞培養系だけでなく,ゼブラフィッシュやマウスのin vivoシステムにおいても正常細胞と変異細胞の境界で特異的な現象が報告されてきた.この総説では主にほ乳類における正常上皮細胞と変異細胞の境界で起こるさまざまな現象について紹介する.また,この新規の研究分野がどのようにがん予防・治療法の開発へとつながっていくかその展望を論説する.
- 2012-08-01
著者
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藤田 恭之
Medical Research Council Laboratory For Molecular Cell Biology And Cell Biology Unit And Department
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梶田 美穂子
北海道大学 遺伝子病制御研究所 分子腫瘍分野
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藤田 恭之
北海道大学 遺伝子病制御研究所 分子腫瘍分野
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