ヒツジにおける母性行動の中枢機構 : 嗅覚による子ヒツジ認識のメカニズム
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概要
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ヒツジの母性行動は分娩を契機として発現するが,母ヒツジは分娩後数時間以内にわが子に特有の匂いを記憶して他個体の子と識別するようになる.母親はわが子には吸乳を許すが他個体の子の吸乳の試みは激しく拒絶する.ヒツジ嗅球では分娩時にグルタミン酸,GABA,ドーパミン,一酸化窒素,ノルアドレナリン,アセチルコリンが放出され,これらの神経伝達物質の放出は人為的な子宮頸管刺激により誘起される.人為的子宮頸管刺激により他個体の子の受け入れを誘起できることから,分娩時の子宮頸管刺激が嗅球における神経伝達物質放出の引き金となり,子ヒツジの匂いの記憶が形成されると考えられる.経産ヒツジと未経産ヒツジの嗅球の神経回路は,分娩に対応した神経伝達物質の放出増加の有無などの点で質的に異なるが,これは初回分娩後に急速な可塑的変化が起こるためと推察された.分娩時に一酸化窒素合成酵素阻害剤を嗅球に投与すると母ヒツジは他個体の子を受け入れることから,子の匂いを記憶する際の一酸化窒素放出の重要性が明らかとなった.また分娩後のヒツジ嗅球では,わが子の匂いに反応してグルタミン酸およびGABAが放出され,母ヒツジはGABAA受容体拮抗剤の投与により子ヒツジの識別ができなくなった.子ヒツジの匂いの記憶は,分娩の際の子宮頸管刺激により嗅球の僧帽細胞上顆粒細胞間の相互シナプスの伝達効率が増強されることにより形成されると考えられた.
- 日本繁殖生物学会の論文
- 1995-12-01
著者
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大蔵 聡
京都大学霊長類研究所
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大蔵 聡
京都大・霊長研
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KENDRICK Keith
Department of Neurobiology, The Babraham Institute
-
Kendrick Keith
Department Of Neurobiology The Babraham Institute
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