微生物由来天然化合物の探索とケミカルバイオロジー
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概要
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2003年にヒトゲノムの全塩基配列解読終了により,生命科学研究はポストゲノム時代に突入した.そのような状況のなかで,小分子化合物を用いて生命現象を解析する「ケミカルバイオロジー」がポストゲノムの重要な研究領域としてその発展が期待されている.ケミカルバイオロジーを展開する上では,構造および生理活性に多様性を有する小分子化合物群の開発が重要である.さらにケミカルバイオロジー研究に有用な小分子化合物の中には疾患に関わる細胞内情報伝達経路に作用するものが含まれることから,疾患治療薬のリード化合物となることが期待でき,ゲノム創薬としての展開も十分可能である.このような小分子化合物の供給源として従来から天然化合物,特に微生物二次代謝産物が用いられてきた.その理由は微生物代謝産物が合成化合物とは異なり,構造中に多数のキラル中心や環構造の多様性からくる複雑かつリジットな立体を有しているからである.また合成化合物と微生物代謝産物それぞれに含まれるヘテロ原子数を比較すると,ハロゲンや硫黄原子には大差がないものの微生物代謝産物には酸素原子が多く含まれているという特徴を見出すことができる.このことは微生物代謝産物が,タンパク質との相互作用に重要な水素結合のdonor/acceptorになりうる官能基を多数有していることと関連しており,従ってタンパク質と相互作用しうる化合物の探索源としては微生物代謝産物に利があると考えられる.実際に,微生物二次代謝産物には様々な生理活性を有するものが多数報告されており,実際に過去20年間で認可された医薬品のうち,天然化合物およびそれをリードとした化合物はおよそ60%にものぼる.本稿では,微生物二次代謝産物から発見され,ケミカルバイオロジー研究の発展に貢献した化合物を紹介し,それらの疾患治療薬への展開についても概説する.
- 2008-07-01
著者
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