NSAIDs によるヘムオキシゲナーゼ-1誘導とその役割
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概要
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非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)の副作用である胃潰瘍誘発作用が臨床現場で大きな問題となっている.最近我々は,NSAIDsが胃粘膜細胞死を引き起こすことがNSAIDs潰瘍の原因の一つであることを見出し報告した.我々はNSAIDsによりヘムオキシゲナーゼ(HO)-1が誘導されること,およびこの誘導によりNSAIDs依存の細胞死が抑制され,NSAIDs潰瘍の発症が抑制される可能性を考え研究を開始した.我々はモルモット胃粘膜初代培養細胞を用いて,毒性を示さない低濃度の種々のNSAIDsによって,HO-1が誘導されることを見出した.このHO-1誘導はCOX非依存であり,NSAIDsによるp38 MAPKの活性化,およびそれによるNrf2(HO-1の転写因子)の核内移行に依存していた.一方我々は,HO-1阻害剤(SnMP)により,NSAIDsによる胃粘膜細胞死(アポトーシス)が促進されることを見出した.一方in vivoにおいて我々は,インドメタシンにより形成された潰瘍周辺部位でHO-1が誘導されていること,およびアポトーシスが起こっていることを見出した.さらにラットにSnMPを前投与する事により,インドメタシンによるアポトーシス誘導,および胃潰瘍の形成が促進されることを明らかにした.以上の結果は,NSAIDsによって誘導されたHO-1が,アポトーシスを抑制することにより胃潰瘍の抑制に関与していることを示している. 非ステロイド系抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs, NSAIDs)の胃潰瘍副作用が臨床現場で大きな問題になっている.近年胃潰瘍副作用の少ないNSAIDsとして,COX-2選択的NSAIDsが開発されたが,最近これにはそのCOX-2選択性を原因とする新たな副作用(血栓を起こしやすくし心筋梗塞を誘発する)があることが分かり,多くのCOX-2選択的NSAIDsが販売(開発)中止となった. これまでNSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害し,胃粘膜保護因子であるプロスタグランジン(PG)を低下させることにより胃潰瘍を導くと考えられてきた.しかし最近では,NSAIDs潰瘍の発症がPG低下作用のみでは説明できないことが分かってきた.例えばインドメタシンをラットに経口投与する場合,胃潰瘍を発症させるために必要なインドメタシンの濃度は,胃粘膜のPG合成を完全に抑制するのに必要な濃度に比べ,10倍以上も高いことが知られている.このようにNSAIDs潰瘍の発症には,COX阻害以外の別の作用も関与していることが明らかになってきたが,この別の作用が何であるかは不明であった.我々は,NSAIDsが胃粘膜細胞を直接傷害する(胃粘膜細胞死を導く)ことが,この別の作用の実体ではないかと考え,研究を開始した.
- 社団法人 日本薬理学会の論文
- 2007-10-01
著者
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