分子生物学的手法によるヒトの大腸内細菌叢の解析
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概要
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これまでヒト大腸内菌叢の研究は培養可能な細菌を中心に行われて来た.しかしながら,70〜80%の細菌が難分離,難培養性細菌で占められているために,培養法ではヒト大腸内細菌叢の全体像を理解する上では不十分であった.本研究はヒトの大腸内菌叢とその機能を明らかとするために,16S rRNA遺伝子ライブラリーおよびT-RFLPを用いて大腸内菌叢の解析を行った.得られた約1800クローンの解析を行ったところ,個体差はあるが約75%のクローンが未同定な菌種の配列に分類され,未同定な細菌が多数存在することが明らかとなった.系統解析の結果,成人男性では Clostridium leptumサブグループ(Clostridium rRNAクラスターIV), Clostridium coccoidesグループ(Clostridium rRNAサブクラスターXIVa), Bacteroidesグループが主要な構成菌種として常在していた.一方,高齢者では C. coccoidesグループの検出率が低く,“Gammaproteobacteria”に属するクローンが高頻度に検出されることを明らかにした.菜食主義者では C. leptumサブグループ,C. coccoidesグループ,Bacteroidesグループ, Clostridium rRNAクラスターXVIIIに含まれる菌種由来の配列を検出した.以上の成果からヒト大腸内菌叢の全体像の一部が明らかとなった.消化管各部位における腸内菌叢の多様性を解析するために,老人の消化管各部位における大腸内常在菌の16S rRNA遺伝子ライブラリーとT-RFLPより解析を行ったところ,空腸,回腸においては“ Gammaproteobacteria”,Lactobacillus,Streptococcus, Enterococcusグループ,Bacteroidesグループが高頻度に検出し,盲腸,直腸ではC. coccoidesグループ, C. leptumサブグループ,Bacteroidesグループ,“Gammaproteobacteria”に属する菌種を検出し,消化管各部位おいて腸内菌叢の構成パターンが異なることを認めた.さらに大腸内常在菌の機能解析の一環として,食物繊維分解に関与している考えられるキシラナーゼ遺伝子を培養することなく,eDNA-PCRにより増幅を行ったところ,5種類の新規キシラナーゼ遺伝子の取得に成功し,ヒトの大腸内のキシラナーゼ遺伝子は多様性に富んでいることを示した.さらに高頻度に得られたキシラナーゼ遺伝子を自己組織化地図(Self-Organizing Map)により解析を行ったところ, Bacteroidesまた近縁の菌種由来の遺伝子であることが推定された.以上の成果から分生物学的手法を用いることによるヒトの大腸内菌叢が明らかとなった.
- 2006-01-01