ラット顎関節部の炎症の進行に伴う摂食行動ならびに咀嚼時筋活動の変化
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概要
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顎関節部の炎症の進行に伴う摂食行動ならびに咀嚼時顎筋活動の変化のメカニズムを解析する目的で, ラットの片側顎関節部に完全型フロイントアジュバントを接種して20日間にわたり炎症を持続させ, 接種後5日目, 10日目, 15日目および20日目に両側顎関節部の炎症の病理組織像, 摂食行動ならびに咀嚼時顎筋の筋電図活動を体系的に観察記録し, 片側顎関節部に生理食塩水を注入した対照群の成績と比較した.得られた結果は以下のとおりである.1. アジュバント接種後5日目で, すでに注入側の顎関節および咬筋に軽度の炎症像が認められ, 注入部に掻痒感または違和感の発生が伺えた.また, 摂食時に頸を少し傾斜させた姿勢での非注入側(片側)咀嚼が確認されたが, 食物摂取量には影響がみられなかった.2. 炎症は10日目には側頭筋, 内側および外側翼突筋にまで広がり, 以後増悪し, 20日目にピークに達した.注入側顎関節部に発生する疼痛の程度も炎症の進行に並行して増大していった.3. アジュバント非注入側の顎関節および周囲組織には, 注入後5日目から20日目までの実験期間を通して炎症像は全く認められなかった.注入部位から離れた顎二腹筋前腹においても, 両側ともに炎症像はみられなかった.さらに, 20日目の両側前肢関節部にも炎症像は全く認められなかった.4. 左右側の咬筋, 側頭筋および顎二腹筋前腹から慢性記録電極を介してアジュバント接種後経日的に咀嚼時筋電図リズムを記録し, 対照群の成績と統計学的に比較した.アジュバントの影響は3筋の放電振幅に最も顕著に出現するのに反して, 周期には全く出現せず, 持続には側頭筋にだけ現れた.5. 炎症像の認められない注入後5日目の側頭筋および顎二腹筋において, 両側ともに放電振幅の増加がみられた.これは軽度の炎症をもつ片側顎関節での咀嚼に伴う侵害性刺激が反射性に両側の当該筋に興奮性活動を生じさせた結果であると考えられる.6. アジュバント接種後, 最も早期に(5日目に)炎症像の出現した咬筋では, 10日目以降注入側では放電振幅の減少が, 非注入側では逆に増加が起こった.注入側では筋自体の炎症性疼痛による抑制性作用が, 非注入側では顎関節の炎症性疼痛による興奮性作用がそれぞれ反射性に働いたためであると考えられる.15日目以降に出現する側頭筋の放電振幅の減少もまた, 筋自体の炎症性疼痛による抑制性影響の結果であると考えられる.7. 注入側の側頭筋において, 5日目に顎関節炎の影響で両側性に出現していた放電振幅の増加が10日目に一旦消失し, 15日目以降減少となって現れた.この消失の原因は, 顎関節炎からの興奮性影響と側頭筋自体の炎症による抑制性影響が相殺し合って見かけ上, 放電振幅に有意差が現れないためだと推測される.以上述べたように, 顎関節部の炎症の進行に伴って出現する咀嚼時顎筋活動の変化のメカニズムには, 少なくとも顎関節の炎症性疼痛に基因する興奮性反射と顎筋自体の炎症性疼痛に基因する抑制性反射の, 顎筋に対して二つの相反する作用をもつ侵害受容性反射の関与が提議される.稿を終えるにあたり, 終始ご懇篤なるご指導とご校閲を賜わりました恩師西正勝教授, ならびに多大なるご教示, ご校閲をいただきました九州歯科大学口腔科学講座天野仁一朗教授および口腔病理学講座福山宏教授に深甚なる感謝の意をあらわします.さらに, 本研究に数多くのご協力をいただきました歯科麻酔学講座の諸兄姉に心からお礼申し上げます.
- 九州歯科学会の論文
- 1996-06-25
著者
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