ヒマラヤにおけるモレーン堰止型氷河湖の拡大機構について : 湖水流動系の観点から
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概要
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近年の地球温暖化による氷河の急速な縮小・後退によって,ヒマラヤの氷河では末端にある湖の拡大と決壊洪水が今日の大きな問題となっている.ここでは,これまでの観測結果に基づき,主に湖水の流動系の観点からその拡大機構についてまとめてみた.ここで対象となるのは,現在も拡大を続けている東ネパールのツォー・ロルパ湖とイムジャ湖,ブータンのルゲ湖である.現在,三湖は共に表面積約1km<SUP>2</SUP>,貯水量10<SUP>7</SUP>m<SUP>3</SUP>のオーダーであるが,湖水の水温・密度構造に大きな違いがみとめられる.これは,三湖の間で,(a)湖の下流にあるエンド・モレーンやdead-ice zoneの地形構造,および(b)湖の上流に接する氷崖の基部からの高濁水の流入,の条件が異なるからである.(a)について,イムジャ湖やルゲ湖ではエンド・モレーンやdead-ice zoneが湖面より20〜30m高く,これが障壁となって湖面付近で谷風が弱くなる.この地形効果が湖表層の吹送流を弱め,日射によって暖められた表層水を氷崖に向かって輸送する能力を弱める.逆にエンド・モレーンの高さが湖面とほとんど変わらないツォー・ロルパ湖では,谷風によって上層で湖水の鉛直循環が強化され,湖面下の氷崖基部やさらに湖底下氷体の融解を促進する.この氷崖基部の融解促進は,氷崖全体を不安定にし,氷崖のカービングを引き起こす原因となる.(b)については,ツォー・ロルパ湖とルゲ湖で観測され,高濁流入水は垂直循環流と混合し,懸濁密度流として湖内を貫入・拡散する.ツォー・ロルパ湖では,この流れによって鉛直水循環の熱の一部がより下層へ拡散し,湖底の氷体の融解を促す.イムジャ湖では,氷崖基部に高濁水の流入がないため密度成層が弱い.他方で,表層の吹送流も弱いため日射熱の配分は湖全体に緩やかに行われ,拡大速度は相対的に小さい,と判断される.
- 2005-01-15
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