精神科単科の病院と心身医学
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概要
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私は精神科の医師になって以来, その大半を総合病院の精神科で過ごし, リエゾン精神医学を中心に精神医学の立場から心身医学に関わってきましたが, 5年前, 50歳になって初めて精神科単科の病院で働くことになりました. 同じ精神科とはいっても精神科単科の病院と総合病院ではその臨床現場の様相がまったく異なります. 総合病院では入院も外来も神経症やうつ病, 摂食障害, 人格障害などの患者が多かったのに対し, 精神科単科の病院では入院患者の大部分が統合失調症の患者であり, 外来もその多くは統合失調症か, 問題行動を伴っている高齢期痴呆の患者で占められています. このような職場では心身医学との縁は遠くなったものと考えておりました. 他方, 永年総合病院の精神科で働いてきた医師にとって困ることがありました. 心身医学を志す者は, 当然患者の身体的な問題にも精神的な問題にも精通しているはずですが, これまでは重大な身体疾患を見逃してはいけないという気持ちもあり, 精神科で加療中の患者に身体的な問題が生じた際には, 比較的気楽に他科の先生方に診察を依頼することができました. しかし, 現在私が勤務している病院には精神科の医師しかおりません. 熱が出た, 転んで足が腫れている, 腹が痛い, 発疹が出た, など入院患者のさまざまな身体的問題に対してすべて自ら診断して治療方針を立てなければなりません. もちろん自分の手に負えないとなれば近くの医療機関に連れて行くことはできますが, それが夜や休日であれば簡単には受診させられません. プライマリケア医に要求される程度の身体医学的診断と治療能力が求められます. さらに入院している統合失調症の患者に共通した問題があります. 総合病院で扱う患者では身体症状の訴えが過剰気味であることが多いのと対照的に, 統合失調症の患者は身体症状の訴えが乏しい傾向があり, イレウスや骨折, 悪性腫瘍などの発見が遅れてしまうことが少なくありません. これは原疾患そのものの問題だけでなく, 投与されている薬物の影響もあると考えられますが, 患者の訴えがなくても常に患者の身体状況に注意を払っておく必要があります. また, 現在精神科単科の病院に入院している多くの患者は入院期間が長く, 高齢化しているという問題があります. 彼らは高脂血症や糖尿病, 高血圧症などの生活習慣病を有しており, そのセルフコントロールは困難です. 悪性腫瘍の治療においてもさまざまな問題が生じてきます. 手術や放射線療法などに対する同意能力の問題や, ターミナル期になった場合, 総合病院では診てもらえず, 家族も自宅へは引き取ってくれないため, 結局長く入院した精神科の病院で緩和ケアを行わなければならないということが起きます. これらの問題はまさに心身両面についで慎重な配慮が必要な臨床的問題であるにもかかわらず, これまで心身医学の領域では十分な議論がなされてきたとはいえません. 心身医学に関心をもっている精神科医はしだいに総合病院精神医学へとその関心を移しつつあるようにみえますが, 精神科単科の病院の問題はそこでも取り残されてしまう可能性があります. 精神科単科の病院においても今後新たな側面から心身医学を考える必要があるのではないかと思うこのごろです.
- 日本心身医学会の論文
- 2005-01-01
著者
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