神経栄養因子様低分子プローブ
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概要
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神経栄養因子は神経細胞の分化を促進し,その生存を維持する作用のある一群のタンパク質である.神経栄養因子は成人の脳においても,神経細胞の生存を維持するのみではなく,神経回路を保全/修復し,高次神経機能を再生させる作用があることが期待される.しかし実体がタンパク質であるために個体レベルで用いるのは困難である.そこで低分子化合物に神経栄養因子様作用を持たせることが試みられている.中枢ニューロンにも適用可能な神経栄養因子様低分子プローブの条件としては,1)中枢ニューロンの生存維持作用を有すること,2)中枢ニューロンの神経突起伸展/再生作用を有すること,3)脳血液関門(BBB)を通過すること,4)化学合成が容易であることである.世界中で数種類の化合物が報告されている.主なものは以下の3つの低分子化合物ある.1)スタウロスポリン様アルカロイド,2)イムノフィリンリガンド,3)シクロペンテエノン型プロスタグランジン(PG)である.KT7515/CEP1347,GPI1046及びNEPP11はそれぞれグループ1),2),3)の代表的な低分子プローブである.我々が創製したNEPP11は核内受容体との結合を介して,種々の遺伝子の発現を誘導する.NEPP11は種々のストレスタンパク質の誘導を介して神経栄養因子様作用を発現することが明らかになり,ニューロンにおけるストレスタンパク質の新たな生理作用が注目されている.例えばNEPP11のニューロン生存維持作用の発現には,ヘムオキシゲナーゼー1(HO-1)の誘導が必要であることがわかった.HO-1誘導はニューロンにおいてストレス耐性を獲得するための基本的なメカニズムであることから,NEPP11はpost-mitoticなニューロンにおいてHO-1誘導の生理的な意義を探るための低分子プローブとして注目される.本総説では神経栄養因子様低分子プローブを概観し,それを可能にする分子基盤について述べる.
- 2002-11-01