西南日本とその周辺における屋敷囲いとしての石垣の分布と様式
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概要
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<BR>I 研究目的<BR> 屋敷囲いとしての石垣は,特に西南日本に多い.しかし1960年代から,瓦屋根の導入や,RC工法により母屋の強度が増したことから石垣が不要となり,集落の道幅を広げる際ブロック塀にするなどの変化がおこった.このため今なお残存する石垣の屋敷囲いをもつ集落は少なくなってきている.たとえ石垣が残っている場合でも,集落全体に完全に保存されている例は稀で,ほとんどが部分的に石垣を残しているに過ぎない.<BR> 本研究は主に,強風や波から母屋を守るために築かれる石垣を対象とした.西南日本を中心に,上記の条件の石垣を多く残す集落を対象として,風と屋敷囲いとしての石垣との関係や,地形条件と防風用の石垣の関係を考察した.屋敷囲いとしての石垣の様式の違いや,地域差などを知ることを研究目的とした.<BR><BR>II 研究方法と調査地域<BR> 石垣の分布と地形断面の調査は2003~2006年の期間におこなった.調査は西日本周辺の石垣残存率の高い地域と,台湾2地点(金門島,澎湖列島),韓国1地点(済州島)でおこなった.南西諸島では渡名喜島,浜比嘉,備瀬,喜界島を調査対象とし,西南日本では知覧,出水,対馬,隠岐島,佐多岬,外泊,沖ノ島,室戸岬,紀伊半島,坂本の合計17地点で石垣の分布と高さ,様式の調査をした.<BR><BR>III 結果<BR>1.石垣と防風林の分布<BR> 日本全国で防風目的の石垣に関する文献を選び出し,地図にプロットした.さらに上記の調査結果を加えると,石垣の分布は南西諸島の海岸部にあり,太平洋岸では,紀伊半島以西の島嶼部と海岸部にほぼ限られていることがわかった.また日本海の沿岸においては,島根県の隠岐島以西に石垣が分布する.隠岐島以東では,石垣から生垣や屋敷林を主体とする防風林に変化し,防風林は内陸にも及ぶ.しかし例外は南九州知覧の武家屋敷と,琵琶湖岸坂本であり,この両地域には内陸にも関わらず,屋敷囲いとしての石垣が分布する.<BR>2.海岸からの距離と石垣の高さとの関係<BR> 喜界島の阿伝と小野津,対馬の志多留,紀伊半島の串本と紀伊大島の須江において,石垣の高さと海岸からの距離の間に反比例の関係が成り立つことがわかった.すなわち石垣は海に近いほど高くなり,内陸にいくにつれて石垣の高さは低くなる.例外的に内陸でも風は弱くなるのに,高い石垣を築く場合がある.聞き取り調査から経済力や美意識,ステータスシンボルとしての意識などが影響している.<BR>3.石垣の様式<BR> 屋敷囲いとしての石垣の石材は,近場にある石を用いている.また,そのほとんどが野石積みである.<BR> 屋敷囲いとしての石垣の積み方の様式は2つに分けられる.1つは南西諸島を中心に台湾や済州島まで分布する琉球様式である.もう1つは琵琶湖畔の穴太積みをふまえた様式で,本州域から南九州まで分布する本州様式である,琉球様式は曲率を持った湾曲した隅角を持つが,本州様式は算木積みで陵を立てて積む.南九州には,琉球様式と本州様式の2つの様式が共存する.対馬では,南島の厳原は主に本州様式であるが,北島の志多留や木坂は琉球様式が混在することがわかった.済州島の石垣も琉球様式にきわめて良く似る.<BR>4.屋敷囲いの石垣からみた季節風と台風<BR> 屋敷囲いの石垣と防風林の分布から,防風の対象とする風が,冬の季節風と台風であることがわかった.石垣の方位と高さとともに考察すると,図1のようにその境界が明らかになった.また,強風の風向もおよそ知ることが出来た.
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