造血幹細胞移植患者に対する理学療法の現状と移植前処置療法の違いによる検討
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概要
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【はじめに、目的】 造血幹細胞移植は骨髄移植や臍帯血移植、末梢血管細胞移植などに分類され、白血病や悪性リンパ腫などの血液悪性疾患に対して施行される。通常の移植では移植前に行う前処置療法として超大量抗がん剤投与や全身放射線照射を行うため副作用が強く、臥床傾向となるため廃用症候群の進行が問題視されている。一方、近年は高齢化に伴い、移植適応年齢を超えた高齢者に対して、前処置療法を減弱して行う骨髄非破壊的前処置によるミニ移植が増えてきている。ミニ移植後の合併症の発生は骨髄破壊的前処置に比べ発生リスクが高いとも言われており、経過によっては長期の入院となる場合もある。どちらの移植も入院期間は長期になることが予想され、廃用症候群を予防・改善するためのリハビリテーションは、院内生活や自宅退院時のADL、QOLの維持・向上のために重要な役割を担うと考えられる。しかし、先行文献には前処置療法の種類によって理学療法介入にどのような影響があるかを検討した報告はみられない。 そこで、本研究の目的は当院における造血幹細胞移植前後の理学療法(以下、PT)の実態について調査し、更に移植前処置療法の違いについて検討した。また、今後の改善すべき課題を明らかにして造血幹細胞移植患者に対するPTのあり方について考察する。【方法】 対象は造血幹細胞移植のために当院に入院し、2008年4月から2011年3月の3年間の間にPTを1回以上実施した患者55例とした。対象の性別は男性24例、女性31例、年齢は46.2±15.0歳。疾患の種類は急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫であった。前処置療法に骨髄破壊的前処置を実施した群を通常移植群(以下、通常群)、骨髄非破壊的前処置を実施した群をミニ移植群(以下、ミニ群)とした。検討項目は、1.年齢、2. 転帰、3.入院から移植までの日数、4.入院から移植前PT開始までの日数(以下、移植前開始日数)、5.移植からPT開始までの日数(以下、移植後開始日数)、6.在院日数とした。統計的手法は、項目毎にMann-Whiteny U-test、t-testを用いて検討した。なお、危険率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき、北海道大学病院自主臨床研究審査委員会の承認を得て、当院における臨床研究に関する倫理指針に沿って行った。【結果】 通常群が32例、ミニ群が23例であった。年齢は通常群41.5±14.3歳、ミニ群52.7±14.1歳で有意差が認められた(P<0.05)。転帰は、自宅退院が通常移植25例で在院日数169.5±103.5日、ミニ移植が自宅退院14例で在院日数200.0±83.2日、死亡退院は通常移植7例で在院日数318.3±201.2日、ミニ移植9例で在院日数244.0±98.1日、転院は通常群1例で682日であった。入院から移植までの日数は通常群79.8±68.2日、ミニ群102.2±69.1日。移植前開始日数は通常群37.1±46.2日(11例)、ミニ群39.4±38.2日(19例)。移植後開始日数は通常群50.7±27.5日(28例)、ミニ群37.5±21.3日(19例)。在院日数は通常群218.1±163.8日、ミニ群217.4±89.8日であった。結果をまとめると、年齢では有意差が認められたが、それ以外の各項目で有意差は認められなかった。【考察】 本研究の結果、2群間の年齢において有意差が認められた。この結果はミニ移植が通常移植よりも高齢者に対して用いることができる移植方法であり、過去の文献と同様の結果となった。また、造血幹細胞移植患者は長期間のPT経過と入院期間を強いられ、かつ不幸な転帰を迎える患者も多いことを念頭にPTを行う必要があると考えられる。両群における移植前PT開始時期と移植後PT開始時期ともに介入するまでに要する期間が長かったが、先行研究では早期からの理学療法介入が運動機能低下の予防に効果的との報告もあるため、今後、造血幹細胞移植患者に対する多職種による組織的な管理運営を構築する必要性があると思われる。今回の研究結果は、今後の当院における造血幹細胞移植患者のリハビリテーションの効果判定の指標になると考えられる。また、評価内容は担当したPTに任され、統一されたPT評価結果を抽出することが困難であったため、統一された運動機能やその他の評価結果を抽出することができなかった。今後は、造血幹細胞移植患者に対して、当院における標準化した評価を構築し、データを蓄積して検討したい。【理学療法学研究としての意義】 造血幹細胞移植患者に対する治療は困難を極め、不幸な転帰を迎えることや、廃用症候群に至る場合も少なくない。理学療法介入するまでに要する期間が長い現状を把握し、今後のシステムを構築する必要性を本研究は提供することができた。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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