人工膝関節全置換術患者における伸張‐短縮サイクル運動遂行能力と歩行速度、Timed Up&Goテストの関連性
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概要
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【目的】 我々は、2010年4月より本学附属の4病院(以下4病院)にて、人工膝関節全置換術(以下TKA)患者を対象に統一した評価表を用いている。評価表は、機能評価表とWOMACを参考とした問診表から構成されている。機能評価の項目の中には、「Quick Squat(以下QS)」という評価があり、これは、膝関節屈曲60°までのスクワットを10秒間出来るだけ早く行い、その回数を評価するものである。QSは伸張‐短縮サイクル(stretch-shortening cycle以下SSC)運動であり、SSC運動の利点の1つとして反動動作によって効率よく筋張力を発揮出来る点が挙げられる。SSC運動は、スポーツ選手の投擲動作時やジャンプ施行時から健常者の通常歩行時まで幅広く認められており、歩行能力の維持・改善にはSSC運動の遂行能力向上と適切な評価が重要であると考える。4病院では、TKA術後患者にQSをトレーニングとして取り入れている。本研究では、QSの有用性を明らかにする為に、TKA患者のQS回数と10m Maximum Walking Speed(以下MWS)、Timed Up&Goテスト(以下TUG)に関連があるか検討した。【方法】 研究デザインはデータベースからの後方視的調査である。対象は2010年4月から2011年7月までに4病院でTKAを施行し、術前、術後3週、術後8週、術後12週でQSとMWS、QSとTUGが測定可能であった症例とした。各評価時期における症例数及び平均年齢は、術前、術後3週、術後8週、術後12週の順に、QSとMWSでは86例、155例、54例、38例であり、QSとTUGでは99例、151例、102例、83例であった。各評価時期におけるQS回数とMWS、QS回数とTUGについて、それぞれSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。統計解析ソフトはSPSS(ver.19)を使用し、有意水準は1%とした。【倫理的配慮】 本研究は、慈恵会医科大学倫理委員会の承認を受け、ヘルシンキ宣言に則り施行した。【結果】 術前、術後3週、術後8週、術後12週の順に結果を示す。QSの平均回数は、8.0±3.9、7.7±3.4、10.1±4.0、11.1±4.2、MWS(m/min)の平均は、60.7±20.6、54.3±17.9、67.8±21.0、73.8±19.1秒、TUGの平均時間(秒)は、13.3±6.4、15.3±6.9、12.0±5.0、11.0±3.9であった。各評価時期におけるSpearmanの順位相関係数の結果は、QS回数とMWSで0.59、0.49、0.66、0.62、QS回数とTUG時間で-0.57、-0.51、-0.63、-0.64であり、全ての項目で中等度の相関が認められた(p<0.01)。【考察】 本研究ではQS回数が多いほどMWS、TUGが速くなる、という結果が得られた。歩行はSSC運動であり、かつ素早い筋の収縮と弛緩、瞬時に筋収縮様式の変換が求められる。トレーニングの特異性の原理を考慮すると、その動作に見合ったトレーニングが必要であり、歩行能力改善には上記の要素が含まれるSSC運動やCKCでのトレーニングが必要と考える。しかしながら、一般的にスポーツ選手などに用いられるリバウンドジャンプ等のSSC運動は、TKA患者には負荷が高く危険を伴う。一方、QSは床に足底が着いた状態(CKC)でのSSC運動であり、TKA患者にも遂行可能な利点があり、素早い筋収縮も求められる。以上の事から、QSは歩行のトレーニングとして有効であると共に、歩行速度を反映する有用な評価であると考える。QSがTUG時間を反映する理由としては、QSの運動特性が立ち上がりや、着座の動作能力も反映する為だと考えられ、この事もQSの大きな有用性であると考える。相関係数は術前と3週では、8週、12週より低値を示した。術前や3週では疼痛の程度や歩行能力の個人差にばらつきが大きい事が予測され、術後8週を経過し、疼痛も落ち着き歩行も安定してくる時期であるなら、QSはMWSやTUG時間をより強く反映出来るのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】 本評価表は、機能評価表と問診表から構成され、多施設で運用している。機能評価の中にはQSという新しい評価項目があり、QSが歩行、動作能力評価の新しい指標となる可能性があり、トレーニングとしても有効であると考える。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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