荷重位・非荷重位エクササイズが人工股関節置換術後患者の筋力,筋厚,運動パフォーマンスおよび歩行動作に及ぼす影響:―無作為化比較対照試験―
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
【はじめに、目的】 人工股関節置換術(THA)後患者の筋力や運動パフォーマンスは術後数年を経ても健常者のレベルには達しないとされている。また,THA患者の歩行動作では立脚期の体幹側屈の増大や股関節伸展角度の減少などが共通した歩行異常とされている。しかし,このような運動機能低下や歩行異常に対してどのようなエクササイズ(EX)が効果的であるかは明らかではない。そこで本研究では,THA患者に対する荷重位または非荷重位のEXが運動機能および歩行動作に与える影響を無作為化比較対照試験により検証することを目的とした。【方法】 対象はTHA後女性65名(平均年齢62.7歳,平均術後期間39.2ヶ月,片側43例)とした。対象者を立位荷重位EX(片脚立位,スクワット,立ち座り運動,腰部回旋運動,歩行動作練習,タンデム歩行)を行うWB群22名,非荷重位EX(下肢伸展挙上運動,股関節伸展・外転運動,ブリッジ,膝関節伸展・屈曲運動)を行うNWB群21名,EXを行わないC群22名にブロック無作為化によって割り付けた。両介入群のEX量は各30分間とし,自宅にて8週間毎日行った。介入前後にHarris Hip Score(HHS),等尺性筋力,筋厚,運動パフォーマンスの測定および歩行動作分析を行った。等尺性筋力として筋力測定器を使用して患側の股関節外転・伸展筋力,膝関節伸展筋力を測定した。筋厚の測定項目は患側の大殿筋,中殿筋,小殿筋,大腿直筋および外側広筋とし,超音波画像診断装置を使用して測定した。運動パフォーマンスとして,Timed Up & Go(TUG),5回立ち座りテスト,階段テスト,歩行速度および3分間歩行距離を測定した。歩行動作の分析には三次元動作解析装置(VICON社製,sampling rate:200Hz)を使用し,通常歩行時の患側の股関節屈曲・伸展・内転角度および体幹患側側屈角度の最大値を求めた。両側THA施行者の場合,研究開始前に検査者が歩行状態や片脚立位動作を確認して,より機能低下を示す側を患側とした。統計分析では,一元配置分散分析を使用して介入前の各測定項目を群間で比較した。また,t検定を使用して介入前後の値を群内で比較し,一元配置分散分析および多重比較を用いて各測定値の介入前後の変化量を群間で比較した。介入期間中にWB群から1名,NWB群から1名,C群から3名が離脱したが,Intention-to-treat解析として離脱者も含めて解析を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は本学倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には研究内容を十分に説明し,書面にて同意を得た。【結果】 対象者の介入前の全測定項目には3群間に有意な差はなかった。EX実施率はWB群87.5%,NWB群83.9%であり,両群に差はなかった。C群は全ての測定項目において介入前後に有意な差はなかった。HHSは両介入群ともに介入前に比べて介入後の方が有意に高い値を示した。介入前後のHHSの変化量における3群間の比較ではWB群のみC群に比べて高い変化量を示した。筋力の全ての項目において両介入群ともに介入前に比べて介入後のほうが有意に高く,変化量においても全ての項目で両介入群ともC群よりも有意に大きい変化量を示したが,WB群とNWB群の変化量には有意な差はなかった。筋厚はWB群の大腿直筋と外側広筋のみ介入後の有意な増大を示し,NWB群の筋厚は全て介入による有意な変化はなかった。運動パフォーマンスは全ての項目において両介入群ともに介入による有意な向上を示した。5回立ち座りと3分間歩行はWB群のほうがNWB群およびC群に比べて有意に大きな変化量を示した。歩行動作分析では,両介入群とも股関節角度および体幹患側側屈角度において介入前後に有意な差はなかった。【考察】 EX介入により両介入群ともに筋力と運動パフォーマンスの有意な改善が認められた。筋力の改善は両介入群に有意な差は無く,荷重位EXと非荷重位EXは筋力の増大に対して同様の効果を持つことが明らかとなった。HHSの変化量はWB群のみがC群よりも有意に高く,運動パフォーマンスでは5回立ち座りと3分間歩行の変化量はWB群のほうがNWB群よりも有意に高かった。荷重位EXによる下肢筋協調性の向上や立ち座り運動の動作学習がこれらの結果に結び付いたと考えられる。加えて,WB群のみ大腿部筋厚の増大が見られたことから,全体的な運動機能の改善には非荷重位EXよりも荷重位EXのほうが効果的であることが示唆された。一方,歩行動作分析の各項目においては,両介入群とも介入前後での有意な変化は認めなかった。歩行動作練習を行ったWB群においても改善が認められなかったことから,フィードバックのない自主EXでは効果的な歩行動作の学習は困難であったと推察された。【理学療法学研究としての意義】 本研究はTHA患者に対するホームEX介入の効果を多面的に検証したものであり,本研究の結果は根拠に基づいた理学療法の構築に貢献するものと考えられる。
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
- 療養型病院における廃用症候群の予後予測
- 髄腔内バクロフェン治療(ITB)後の理学療法:―歩行可能な症例に対する評価とアプローチ―
- 理学療法士の職域拡大としてのマネジメントについて:―美容・健康業界参入への可能性―
- 脳血管障害患者の歩行速度と麻痺側立脚後期の関連性:短下肢装具足継手の有無に着目して
- 健常者と脳血管障害片麻痺者の共同運動の特徴:―異なる姿勢におけるprimary torqueとsecondary torqueの検討―