変形性膝関節症患者における重錘把持での歩行が膝内反モーメントに与える影響
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概要
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【はじめに、目的】 変形性膝関節症(以下,膝OA)は,非常に有病率が高い疾患であり,膝OAの原因や進行要因についての報告が多く存在しているが,その要因の中でも,力学的負荷である外的膝内反モーメントが注目されている.膝内反モーメントは疼痛にも影響すると報告されており,膝内反モーメントを減少することは膝OAの進行予防,疼痛減少につながる可能性が考えられる.我々は,歩行時の膝内反モーメントを変化させる1つの方法として,重錘負荷による影響に着目した.膝OA患者の多くは生活を自立しており日常生活では荷物を持つ機会が多いと考えられるにも関わらず,荷物の持つ側による膝内反モーメントの変化を膝OA患者について検討したものはない.我々は前回の本学会において健常者は測定側と同側に重錘を把持した場合に膝内反モーメントが減少し,健側に把持した場合に増加するとの結果を得た.そこで本研究は,重錘把持での歩行が膝内反モーメントに与える影響を膝OA患者において検討することを目的とした. 【方法】 対象は内側型変形性膝関節症の診断を受けた女性19名(年齢:62.6±6.3歳,身長:154.8±5.0cm,体重:51.0±16.5kg)とした.測定には,三次元動作解析装置VICON NEXUS(VICON社製)と床反力計(KISTLER社製)を使用し,膝OA側(膝の疼痛が強い側と規定)の膝内反モーメント,膝関節内反角度,骨盤患側傾斜角度,胸郭患側側屈角度を算出した.反射マーカーは,plug in gait full bodyに準じて35点貼付した.動作課題は自然歩行とし,重錘なし(無負荷),OA側に3kgの重錘を把持(患側),反対側に3kgの重錘を把持(健側)の3条件とした.各3回ずつ測定し,解析にはその平均値を用いた.重錘把持での歩行時には,重錘把持側上肢の動きが不自然にならないよう「荷物を持っているように」と指示した.膝内反モーメントの解析には,立脚期における最大値,積分値を用いた.膝内反モーメントは立脚期において2峰性の波形をとるため,立脚初期での最大値を分析に用いた.また,膝関節内反角度,骨盤患側傾斜角度,胸郭患側側屈角度の解析には,立脚期における最大値,平均値を算出した.統計的解析には,モーメントは対応のあるt検定,角度はwilcoxon符号不順位和検定を用いて3条件の比較を行い,p値はHolm法によって補正した.なお,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 研究内容を説明したうえ,書面にて同意を得た.なお,本研究は本学医の倫理委員会の承認を得て実施した.【結果】 膝内反モーメントは,最大値,積分値において,「健側」が「無負荷」,「患側」と比較し有意に大きい結果となった.また,最大値においては,「患側」が「無負荷」と比較し小さい傾向があった(p=0.095).なお,膝内反モーメント最大値の各平均値(Nm/kg)は「無負荷」で0.67「患側」で0.64,「健側」で0.72であった.膝内反角度では,最大値,平均値ともに有意差は認められなかった.一方,骨盤患側傾斜角度においては,最大値,平均値において「健側」が最も小さく,「無負荷」,「患側」の順に有意に大きくなり,胸郭患側側屈角度は最大値,平均値において「患側」が最も小さく,「無負荷」,「健側」の順に大きくなった.【考察】 本研究では,健側に重錘把持する際には重錘なし条件と比較し膝内反モーメントが増加する一方で,患側に把持する際には有意には減少しなかった.これは,患側で把持する際に膝内反モーメントが減少した健常者の結果と異なる.患側に重錘を把持した場合,身体重心が患側に偏位し床反力と関節軸との距離が短くなるため膝内反モーメントが減少すると推測した.しかし,本研究対象者においては,患側把持した際に骨盤が患側傾斜し,胸郭が健側側屈する方向に誘導されているため,重心の位置が健常者よりも健側に偏位している可能性が考えられる.その原因として,重錘の負荷が大きいため体幹傾斜により代償していることが挙げられる.本結果より,患側に重錘を把持しても体幹が反対側に傾くような姿勢では理論通りモーメントが減少しないことがあり得ることが示された.一方で,健側に把持した場合は,骨盤が健側傾斜し,胸郭が患側側屈する方向に誘導されるにも関わらず,膝内反モーメントは増加することが示された.これは重錘と膝関節軸との距離が患側に把持する場合と比較し大きいため負荷量は大きくなり,重錘による重心偏位が患側に把持した場合に対し大きいためだと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究により,膝OA患者の歩行時の重錘把持と膝内反モーメントとの関連性が明らかとなった.本研究結果は,膝OA患者の日常生活における荷物把持の指導に関して,重要な知見を提供するものである.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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