亜急性期脳卒中患者の歩行自立度判断に関わる影響因子の検討
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概要
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【はじめに】 理学療法士は、脳卒中発症早期から歩行自立度の判断を求められることが多い。しかし、その判断基準は、施設や個人によって異なり、明確な基準は定められていない。Functional Ambulation Categories(以下、FAC)はHoldenにより提唱され歩行自立度分類として信頼性・妥当性が確認されているが、本邦での使用報告は少ない。修正して使用したFACは、介助は不要だがバランス低下による注意や口頭指示が必要な近位監視(以下、近位)、限られた場所での自立示す遠位監視(以下、遠位)、制限なく独立した歩行が可能な自立に分類され、患者の活動範囲を決定するものとしては適当であるが、発症早期における臨床的判断として遠位監視と自立の概念には難渋する。我々の先行調査でTimed"Up and Go"Test(以下、TUG)が近位と遠位または近位と自立の判断に、10m歩行テストが近位と自立の判断の一助になることを報告したが、遠位と自立には関連性を見いだせず、歩行関連評価以外の要因が影響するのではないかとの考えに至った。今回、先行研究でも関連性が確認されたTUGおよび歩行速度の他に、ADL評価であるBarthel Index(以下、BI)、転倒やバランス能力に影響する可能性が高いとされる年齢、測定者自身の判断力を調査するためにPTの経験年数(以下、経験)および発症から評価日までの日数(以下、罹患日数)が影響を与えるかどうか検証することとした。【方法】 対象は、2010年4月から2011年8月までに当大学附属4病院に入院した初発の脳卒中患者のうち、発症から3カ月以内(20.46±14.80日)で且つ担当理学療法士が介助なく歩行可能であると判断した108例(平均年齢68.21±10.41歳)である。なお、高次脳機能障害を有する場合は除外した。調査項目は歩行自立度(FAC)、年齢、罹患日数、経験、TUG、歩行速度、BIとし、診療録より抜粋して後方視的に検討した。統計学的分析は、各歩行自立度間(従属変数:近位群と遠位群、遠位群と自立群)に対して他の調査項目(独立変数)が影響するかを多重ロジスティック回帰分析にて検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、慈恵大学倫理委員会の承認を受け、「ヘルシンキ宣言」に遵守して行った。【結果】 歩行自立度は近位群40例、遠位群29例、自立群39例であった。歩行自立度別の各独立変数は、年齢が近位群68.58±10.07、遠位群70.41±9.96、自立群66.21±11.23歳、罹患日数が近位群18.23±13.69、遠位群21.72±16.16、自立群20.67±15.43日、経験が近位群9.43±6.12、遠位群7.36±4.55、自立群7.76±6.15年、TUGが近位群19.65±12.99、遠位群12.80±5.13、自立群9.68±3.18秒、歩行速度が近位群0.89±0.51、遠位群1.03±0.51、自立群1.42±0.51m/s、BIが近位群81.16±11.06、遠位群91.72±6.98、自立群97.82±4.26点であった。オッズ比(95%信頼区間)は、近位群と遠位群では罹患日数が1.10(1.03~1.17)、年齢が1.14(1.03~1.26)、BIが1.24(1.09~1.41)、遠位群と自立群では歩行速度が4.23(1.04~17.21)、BIが1.22(1.07~1.39)にて有意性を示した。判別的中率は近位群と遠位群で82.61%、遠位群と自立群で80.88%であった。【考察】 亜急性期脳卒中患者の歩行自立度にいずれの段階でも共通して影響した因子はBIであった。その他の調査項目は近位群と遠位群において年齢、罹患日数が影響を及ぼす結果となった。歩行関連の評価ではなく、年齢や罹患日数が影響するということは、動作能力による判断ではなく患者の転倒リスクを避けることが優先され、歩行自立度を判断するのに時間を要し、発症早期には患者の近位に付き添う傾向があると推測される。遠位群と自立群においては、歩行速度が影響因子としてあげられた。慢性期脳卒中患者の歩行速度とBIは関連性があるとされ、亜急性期を対象とした本研究でも同じ傾向を示した。すなわち、亜急性期の脳卒中患者歩行自立度の判断は、施設内での日常生活実態が優先されるが、近位群から遠位群へ移行する場合には転倒関連因子である年齢と罹患日数が影響し、遠位監視群から自立へ移行する場合には、ADLと関連性の高い歩行速度が影響することが示された。また、遠位監視という概念は確かに存在しているが、それに対する理学療法分野での科学的な根拠に統一した見解は少なく、今後判断基準として有効な尺度であるかどうか検証していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 歩行自立度の判断基準を科学的に捉えることは、早期離床および活動範囲の拡大を図るために重要である。今後はFACの信頼性や妥当性を検証した上で、亜急性期脳卒中患者に対する有効な評価項目を検討する必要がある。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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