一細胞創薬,一細胞診断,そして一細胞医療へ
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概要
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【はじめに】細胞の変化を顕微鏡下で見ながら,見たい瞬間の細胞内分子変動をダイレクトかつ網羅的に追跡できたら・・・,これはライフサイエンスの夢かもしれない。我々は,それを世界で初めて,顕微観察下の細胞1ヶ生きたままの状態で,見たい瞬間に細胞成分を吸引補足し,ダイレクトに質量分析で網羅的に分子検出できる手法「1細胞質量分析法」を開発し,現在様々な応用を展開している。【手法の概要】ナノスプレーチップという金コートしたガラス細管で細胞成分(細胞質,小器官,膜など)を吸引捕捉し,次にチップ先端に補足した細胞成分の後方にチップ後端からイオン化補助溶媒(アセトニトリル+ギ酸など)を導入し,電場をかけると質量スペクトルに主に低分子ピークが数百―千分子ピーク検出できることを発見した。検出まで数分であり,その後これらピークを細胞の状態間や細胞内の局所間でのスペクトル同士でt―検定により,状態あるいは部位特異的な分子を抽出し,その変動を追跡することができる。【創薬応用】創薬分野での応用は広く,1)1細胞薬物代謝追跡,2)1細胞毒性評価,3)1細胞内薬物到達・局在確認,4)1細胞リピドーシス解析,5)組織内細胞レベルでの薬物代謝分布検出などを進めている。ヒト肝臓初代培養を用いた1)1細胞薬物代謝追跡では,LC-MSで追跡できる代謝物近くまで検出でき,細胞1ヶで,数分でサーベイできることは,今後の低コスト高速代謝評価法としての可能性を持つ。また,細胞毎に膜上代謝酵素の大きな活性の違いがあることも発見,それが,細胞が身を守る術として用意しているものか興味深い。2)は本年会で大日本住友様より,その成果が発表されるので,ご覧下さい。3)1細胞内薬物の到達では,この手法が,細胞質や小器官,細胞膜を取り分けられるので,これを利用して,候補薬物の標的細胞内への到達の可否(同時に代謝も)や到達しない場合は,膜に留まっているかなどが分かり,合成段階でのスクリーニングなどに利用すると有用ではと考えている。4)リピドーシスの際に形成される小さな脂肪滴も捕捉でき,その中の薬物を検出することができた。代謝物は無く,未変化体をまず取り込む細胞の保身術の様に見え,液泡との役割分担もあると考えた。5)組織レベルでは現在手法開発中で,凍結切片での細胞補足法の高感度化に取り組んでいる。【一細胞診断そして一細胞医療へ】この様な様々な分子エビデンスを蓄積し,病変組織などのデータを積み上げた先に一細胞診断があり,その先に再生医療を絡めた一細胞医療があると考えている。特にこの手法では,細胞分化とともに低分子変動が追跡できる為,低分子誘導でのiPS細胞の作成や,分化誘導などが可能となるのではと期待しつつ,研究を進めている。日本発の本手法が,これらの様々な分野で有用となることを願ってやまない。
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