医学・生物学研究における統計的判断の方法:検定と推定の用い方
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概要
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医薬品の有効性と安全性の評価では統計解析結果に基づく判断が重要な役割を演じる。しかし,統計的方法が適切でなければ重大な判断の誤りにつながることがある。医薬品の臨床開発では,第一相で安全な用量範囲を推定し,第二相で有効な用法・用量,有効な患者層を推定する。この段階は探索研究の段階と呼ばれる。有効性の十分な根拠は,探索研究の結果に基づき有効性を決定づけるための評価方法を定め,被験薬の効果がプラセボを上回るか,標準治療の効果に非劣性または上回ることを統計的に示すことで与えられる。そのための試験を有効性の検証試験という。有効性を証明するための評価変数について,平均値が大きいほど有効であるとする。被験薬の真の平均値は対照薬の真の平均値以下であるとの仮説(帰無仮説)をより大きいという仮説(対立仮説)に対して検定し,有意であるときに被験薬は有効と結論する。真には被験薬が無効なとき検定が有意となり有効と結論する誤りを第一種の過誤,真には有効なときに帰無仮説を棄却できず有効と結論できないと判断する誤りを第二種の誤りという。検証試験では確認すべき仮説(検証仮説)と検定方法,許容する第一種の過誤確率の上限値(有意水準,通常は片側で2.5%)と被験者数,被験者数の設定根拠を実施計画書に明示する。被験者数は,想定した大きさ以上の効果があれば第二種の過誤が指定した値以下になるように定める。検証試験から結論を導くときに重要なことは,有効性の判断に用いる評価項目がいくつあろうとも,誤って有効と結論する誤りの確率を有意水準以下に制御すること(検定の多重性の制御)である。データ解析では検証仮説の検定以外にも,得られたデータから種々の情報を引き出すための探索的解析が行われるが,結果の報告では検証仮説に基づく結論と探索解析の結果を峻別する必要がある。安全性に関しては,評価すべき有害事象や確認すべき検証仮説を予め定めることはできず,通常は,探索的な立場で行われる。即ち有害事象と臨床検査の網羅的な観察と統計的評価に基づき可能性のある有害作用を抽出するが,発見される有害事象の種類は発生確率と調査対象者数に強く依存し,第一種の過誤と第二種の過誤の確率の制御が困難なため,確定的な結論はだせない。検証研究と探索研究では試験デザインや統計的方法の適用の仕方,得られる結論の述べ方が異なる。この講演では検証と探索という概念を軸にして,統計的検定と推定の適用とそれに基づく判断における留意点を,例をあげて解説する。
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