エピゲノム情報を利用した新しいがんの予防・診断・治療
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概要
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発がんには環境要因による影響が深く関与していると考えられている。例えば遺伝毒性発がん物質は遺伝子(ゲノム)損傷を介した遺伝子変異を誘導する。興味深いことに,最近の大規模遺伝子解析から,がん細胞では,予測されたように増殖や生存に関わる遺伝子変異が存在していたが,予想以上にエピゲノム制御遺伝子に変異が蓄積していることがわかってきた。これらの事実から,発がんにはゲノム異常によって誘導されるエピゲノム異常も重要であることが推測される。一方で環境要因のひとつとして,感染症による慢性炎症も発がんの原因となる。日本では肝細胞がんは主にB型,C型肝炎ウイルス(HBV, HCV)による慢性肝炎を母地として発生する。慢性肝炎の状態で,ゲノムワイドにエピゲノム異常を蓄積しており,既に前がん状態を形成していると考える。しかしHBVやHCVが感染後,どのような機序でエピゲノム異常を誘導するかについては,in vivoでは解析がなされていない。我々の研究室では,HBVおよび HCVが感染可能なヒト肝細胞キメラマウスを用いて解析を行った。その結果,ウイルス感染後NK細胞を中心とした自然免疫系が,IFNγの産生を介して,肝細胞にDNAメチル化異常を誘導することを見出した。DNAメチル化異常は,感染日数の経過とともにより高度に蓄積し,とりわけ加齢関連DNAメチル化異常の亢進が顕著であった。不活化抗体を用いてNK細胞の機能抑制することでDNAメチル化異常の誘導は抑制された。すなわち慢性炎症に伴うエピゲノム異常はゲノム異常のみならず種々の原因で誘導されており,遺伝子の制御異常を介して発がんに関与している可能性が高い。今後,発がんに関わるエピジェネティクスの分子機構の解明から,がんの個別化診断・治療に向けた新たな可能性を探りたい。
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