次世代シークエンサーによる屋久島ニホンザル ( Macaca fuscata yakui) に採食品目及び腸内細菌叢の網羅的探索
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概要
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【背景】採食生態学は,動物の社会生態を理解する上で基本的かつ非常に重要な分野であり,これまでに多くの研究がなされてきた.近年では,個体追跡による直接行動観察や糞に含まれる未消化の食物断片からの採食内容の同定に加え,糞に含まれる食物 DNAから採食品目を同定する手法も増えてきている.私たちは,2013年 5月~ 6月に実施した京都大学大学院屋久島フィールド実習およびゲノム実習において,次世代シークエンサーを用いて野生ニホンザルの採食品目と腸内細菌叢を網羅的に探索することを試みた.【方法】5月下旬,屋久島・西部林道域に生息する野生ニホンザルを対象に行動観察を実施した.サルの食物を随時記録しながら,計 28個の糞試料を採取した.糞試料から顕微鏡下で食物断片を同定し,更に DNAの抽出を行い,定量結果に基づいて選抜した 10試料について細菌・植物・動物由来 DNAをそれぞれ PCR増幅した.次世代シークエンサーで網羅的にそれらの塩基配列を解読し,配列データベースに対して相同性検索を行って,配列の由来する分類群を決定した.【結果と考察】腸内細菌叢を個体間で比較したところ,門レベルでは大きな違いはなく,属レベルでは個体差が見られたものの,すべて Prevotellaタイプというエンテロタイプ(特定の細菌の比率に基づく腸内細菌叢の分類)に属していた.これは長期的な炭水化物中心の食事と相関するタイプとされている.調査時期におけるニホンザルの主要食物はタブノキやヤマモモの果実であり,糞からもそれらの種子や DNAが検出されたことから,果実食が Prevotellaタイプの腸内細菌叢の形成に寄与していることが示唆された.また,糞からは数多くの種類の節足動物の DNAも検出され,少量であるかもしれないが多様な昆虫類を食べていると考えられた.発表では次世代シークエンサーによって決定された採食品目と腸内細菌叢との関連性について議論する.
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