大気密度界面に形成される擾乱の発達範囲
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概要
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線状に発達し特定の地域に長時間とどまり雨を降らせることで知られている線状降水帯の物理的なメカニズムは未だに解明されていないことが多く、科学的に興味のつきない現象である。一方で、2004年新潟・福島豪雨や2004年福井豪雨、2010年北海道豪雨など、多くの水災害を引き起こしている線状降水帯の発生・発達過程を調べることは防災という面でも非常に意義のある研究である。本研究では、線状降水帯の水平方向の形状特性について線形安定性理論を用いて解析する。 線状降水帯は不安定な大気場に積乱雲が形成され、それが擾乱として下流に流されることによって線状に発達していく結果形成されると考えられている。これと水平方向の形成範囲が類似している現象として安定な大気場に地形性の上昇気流が生じ、それが波となって線状に発達していく山岳波が挙げられる。本研究では安定な大気場に形成される山岳波の理論を不安定な大気場に応用することで、線状降水帯の形状特性を考察する。 本理論では、Boussinesq近似を施したNavier-Stokes式、連続式及び流体塊は移動時に断熱であるという条件式を基礎式としている(この時、降雨の影響及び熱力学的な効果は問題を複雑化させると考えられるため考慮していない)。また、基本場として区分的線形近似を施した不安定な大気境界層を用いる。これらの基礎式及び基本場により密度成層した大気場に生じる波の分散関係式を得ることができる。この分散関係式を用いて、擾乱によって生じる鉛直方向流速の存在範囲を停留位相法により求める。 以上の議論から、基本場の密度界面に擾乱を与えた場合に、その擾乱がある時間後に広がる範囲を得ることが出来る。この形状は境界層の最大速度と境界層厚さにより定義されるフルード数、及び大気の不安定の度合いに関する無次元数のみにより決定することが分かった。擾乱の水平方向の広がりは、大気が不安定になるほど増加するが、あるピークを境に減少に転じる。これはフルード数の大小で解釈でき、現象が慣性項に支配されているか重力項に支配されているかによって分類することが出来る。 以上のように、本研究では山岳波の理論を不安定な大気境界層に応用し水平方向に広がる擾乱の発達範囲を調べた。これらの議論は線状降水帯の形状特性を調べる上で重要になると考えられる。
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