軟X線デンシトメトリーによるブナ樹幹の容積密度分布解析
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概要
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大気中の炭酸ガスを固定する吸収源としての森林の役割が脚光を浴びている。京都議定書3条4項では、吸収量の報告に対して「透明性の確保」、「不確実性の減少」および「検証可能性」が必要であるとしているが、現時点での蓄積量から炭素重量への変換方式は蓄積に拡大係数、容積密度と炭素含有率を乗じた式で求める方式であり、比較的簡易な方法といえる。本研究では軟X線デンシトメトリーにより幹の詳細な容積密度を把握することができることに着目し、これに樹幹解析の要領を組み合わせることで重量分布を把握することとした。 本研究の材料を採取したのは山形県朝日村にある山形大学農学部附属上名川演習林2林班い小班のブナ二次林である。優勢木の幹の高さ0.2mから1m毎に13.2mの位置で採取した円板からそれぞれ4方向のブロックを取り出した。このブロックは卓上ノコ(鋸)で整形した後、2枚歯の円板鋸で厚さ1.4mmの薄片を切り出した。容積密度の基準となる標準吸収体には厚さ1mmのドロノキを10枚階段状に積層した標準吸収体を用いた。厚さ1mm当たりの容積密度は約0.33g/cm3である。これらは絶乾の後密封した。容積密度を測定するために軟X線写真撮影装置は秋田県立大学附属木材高度加工研究所所有のSoftex社製SR-1010型を用いた。撮影が済んだフィルムは暗室で現像・定着・水洗した後乾燥させた。この軟X線写真はエプソン社製イメージスキャナーGT-7600と透過原稿ユニットを使用して白黒画像としてパーソナルコンピュータに取り込んだ。容積密度の測定はREGENT INSTRUMENTS INC製の年輪解析用ソフトWinDENDRO(Density2002a)を用いた。 区分求積法の基本的な考え方は各断面における半径のデータをもとに、梢端部とその下の円柱の体積を別々に求めて合計する手法で、Smalian式やHuber式などがあるが、本研究では厳密な体積を測定することを目的としているので以下の円錐台の体積式で求めた。 梢端部および幹足部の情報はその上下部の円板の年輪幅を用いて比例関係を当てはめて樹幹形状を推定した。各年の円錐台または三角錐の体積を減算して当該年の断面間の体積を算出し、これに上下の断面の容積密度の平均値を乗じて重量を算出した。これら一連の計算はマイクロソフト社製Windows-XP上で解析および表示することのできる汎用アプリケーションプログラム(SDA)を作成して用いた。 70年生のブナ優勢木の幹内部の容積密度分布をみるとブナの樹幹の容積密度数は0.2から1.2g/cm3の範囲にあり、中心部分および屈曲部分で密度が高く、外側と上部では概ね低い傾向のあることがわかる。重量の連年成長量は右肩上がりであるが、数年おきに極小値が含まれている。他の試料でもこの傾向が認められ、しかも同調している可能性が極めて高い。極小値が現れる原因としては結実の可能性が高いと考えられる。積算重量は20年生時点で7kg、40年で76kg、60年で236kg、82年生時点での重量は441kgであり、炭素含有量の0.5を乗じるとこの個体の幹の炭素量は220kgとなることがわかった。
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