医薬品の研究開発と社会的共通資本
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概要
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本稿は医薬品の研究開発における社会的共通資本の役割を分析した。医薬品のR&Dは民間の製薬企業のみでは実現できず,大学・研究機関,医療機関,政府規制部門,被験者等の公的部門が供給する各種のR&Dサービスが必要である。したがって,競争と規制をめぐる議論においてはこのような公共部門の役割を検討することが不可欠である。この点を宇沢によって強調された社会的共通資本の分析に依拠して検討した。またバイオテクノロジー企業による基礎研究サービス,医療機関による臨床試験サービス,政府規制部門による承認審査サービスの3つの事例を取り上げ,それぞれにおける社会的共通資本の役割を具体的に検討した。この結果,医薬品のR&Dにおける日本の社会的共通資本の蓄積にかかわる問題が明らかになった。とりわけ社会的共通資本の不足が専門能力の蓄積に欠かせない研究拠点(research center)の成立を妨げている。しかし,財政支出抑制がなされている現在の日本では社会的共通資本に対する大規模な投資は期待できない。したがって,従来は公的部門によって供給されてきた各種のR&Dサービスを私的利益動機によって供給する私的R&Dサービス企業を導入する方法が有効である。ところが大学の研究者によって設立されたバイオテクノロジー企業に示されるように,大学・研究機関の基礎研究成果の知的財産権化は,独占の弊害,研究成果の帰属主体の曖昧さをもたらす。他方,臨床試験における利益動機に基づく私的企業の導入,臨床試験と承認審査の料金の上昇はこれらのサービスに対する超過需要を解消し,その分野における資本蓄積を促進すると考えられる。
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The Health Care Science Institute | 論文
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